とある人生の晩節

執筆者 | 21/09/08 (水) | コラム

はじめまして!2020年4月末入会の名村考太と申します。

先ほど起こった出来事をシェアさせていただきたく今更ながら会員になりました。私的なSNSでは関係者に届きすぎますし、twitterでは足らないのでこちらに投稿します。

私は3年以上前から福島県の郡山市で高齢者向け住宅の入居者紹介業というマニアックな仕事をしております。通常、病院のソーシャルワーカーさんや居宅介護支援事業所のケアマネージャーさん達から『自宅で生活することが難しい高齢者の方』を紹介してもらい、その方に合った施設をご家族と一緒に探すのが仕事です。手数料は提携先の施設から入居後にいただくシステムになっています。最近、お客様から『みんなの保険屋さんみたいだね』などと言われることがあります。私がどこまで施設探しのお手伝いしたとしても利用者様からは一円もいただきません。

とある高齢男性

半年ほど前にケアマネージャー(以下CM)から一人の高齢男性の施設探しを頼まれました。初めて訪問する前から『かなり難しい方ですよ』と言われていました。私は性格的に難しいと言われている人の方が上手くいってきた自信があるタイプであるため何も気にせず自宅での打合わせに行きました。

※そもそも認知機能が低下している方の相談は家族がメインで行うことが多いのですが、同居している次男さんも相当にこの男性と仲が悪く、お手上げ状態にあるため、話し合いに関わっていただけないとのことでした。

難しい性格

男性と長年連れ添った妻は認知症により状況把握が困難で、男性は高次脳機能障害を持ちながらも、自分はまともで絶対に正しいというプライドの塊のような方でした。私とCMさんが家に来てもお構いなく、『ちゃんとしろ!』『馬鹿野郎!』などと認知機能が進み、自分ではどうすることもできずにウロウロしてしまう彼の妻をことあるごとに怒鳴りつけていました。こちらからする話は一切聞こうともせず、全国に転勤で動き回っていたときの自慢話などを永遠にし続け、自信があったはずの私もその日はいくつかの施設の資料だけ置いて帰りました。帰り際CMさんが私に『あれでも本当は奥様を心配している優しい方なんです』と言いながらも『正直手を放したい』とのこでした。私は彼をそのまま受け入れてくれる施設があるのかが心配になっていました。

難しい高齢男性と見学

後日その男性から私宛に直接連絡があり、再度CMさん抜きで打合わせをすることになりました。

予定していた日時に自宅に行ってみると誰もいませんでした。現地からCMさんに電話で報告を済ませて、現場を立ち去ろうとしたときに、近所の女性から声を掛けられ『ここの人変だから早く施設なりに入ってもらわないと本当に困る!』『奥さんのことなら近所の人みんなで面倒見るから大丈夫』と言われました。後日聞けば、男性の妹家族だったようです。『なんとかしなきゃ』と思いつつ不安な気持ちにもなりました。

改めて一つの施設を私と男性の二人で見学に行くことになりました。意外にも雰囲気などは気に入ってもらえましたが『いつでも家に帰れなきゃダメだ』『俺だけでなくて妻も連れて来ないでどうするのか』などと言い、施設側のコロナ対応の厳しさと置かれている状況の理解不足により成約には至りませんでした。

男性が施設に入る理由は妻に対する虐待の防止がメインとなっていますが、その本当の理由を本人には到底伝えられない苦しい状況をCMさんに報告致しました。するとCMさんは『本当は入院させてしっかりと精神面の検査と治療をしたい』『施設に入るときに必要になる健康診断のまま入院させられないかと本当は考えていた』と言われました。半分私も騙されていたのですが、施設への入居を決められなかった私は少しほっとしました。最初から無理難題をおしつけられていたのだと…クリアできなくても私の責任ではないのだと…

精神科退院後にどこに住むべきか

先週、この男性の担当CMから『精神科に入院した』『退院後の施設を探してほしい』という連絡を受けました。私からは『どうなるにせよ次男さんとも情報共有をしたい』と伝え先ほど打合わせをしてきました。

次男さんは電機事業を起業され大変忙しい方であると聞いていました。異様に新しくて広い事務所の応接室で挨拶をしようとした瞬間『お久しぶりです!』と自分で言った後に混乱しました。その方のお母さんを2年以上前に施設に紹介したことがあったからです!お母さまとは当然2年前に会っており、半年前に何度か自宅でお見掛けしてました。それでも全く思い出すことは無く、割とコワモテでインパクトの強い次男さんのことはハッキリと覚えていました。2年前のときも精神の投薬のためだけではく、夫からの虐待から逃れるという目的のために入院し、退院後に安心して暮らせるようにと施設に直接入りました。聞けば施設も数か月で出てしまい、自宅で過ごしていたとのことです。CMさんは自宅に戻ってから関わるようになっており、私が関わっていたことは知らなかったようです。私はシンプルに『お母さまのことを思い出せず失礼しました』と頭を下げました。

施設の費用に関して『金は出せなくはないけど』と次男さんは言います。本人は確かにしっかりしたところに勤めていたからか年金はもらっていなくはないようです。しかし、タクシーなどで動き回り、好きなものを外食しまくっていたためか、手持ちはあまり無さそうです。

次男さんの本音で『コロナで東南アジアから部品が入って来ずに事業も停滞している』『事務所の借金も返せるか心配』と言われたところに対して私は被せ気味に『絶対に社長ならば大丈夫です!』と強く言いました。そもそも二年前にもらった名刺と事務所が違う場所に在りました。よほど上手くいっていなければ大きな新築事務所など建てません。そして、本当に辛い状況にありがながらも子供としての使命を果たそうとしています。これほど誠実でパワフルな方が経営をして上手くいかないはずが無いと感じつつ、何が何でも全てが良くなってほしいという願いが溢れ出て余計なことを言ってしまいました。

だからと言って予算を超える施設は無理強いは出来ません。しかし、お父様の性格を考えると安いところでは対応も困難になるのは明白です。もはや自分の成果を一旦抜きにして、『(紹介料が入らない)その病院が運営している施設はどうですか?』と問うたところ『先生(医者)から難しいと思うと言われた』とのことでした。つまり、性格的に難しすぎて受け入れてくれなさそうです。私からは『どこを申し込んでも施設側も無理に入居させないので複数箇所検討してください』『ダメか否かは施設側が決めることです』と言いながらいくつかの資料をお渡ししてきました。後日見学希望日時を確認する予定です。

本当は優しい人の晩節

別れ際、半年前と同じようなセリフをCMさんが言いました。次男さんの前では『本当は優しい人なんです』と。私と二人になったときには『今回で手を放したい』とのことでした。

『本当は優しい人』は恐らく誰からも理解されません。長年支え合ってきたはずの妻への愛情は虐待としか受け取られず、次男も親類も病院も介護者も誰もなかなか『本当は優しい人』の相手をすることは出来ません。CMさんは協力者を求めるために高次脳機能障害のせいであると主張します。しかし、高次脳機能障害をお持ちの方の全てがこうなる訳ではありません。どちらかというと性格に原因があります。

私の祖母も父も高次脳機能障害でありませんが『本当は優しい人』です。彼らの姿を見て育った私も『本当は優しい人』です。

そして、その本質は『とても弱い恥ずかしがり屋』です。。。キリがないので今回はこの辺で。乱文長文失礼しました?


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