みなさん、こんにちわ。
2021年1月入会の鈴木リカです。
私は元細胞生物学の研究者で、現在はお酒のお仕事をしています。
先月末から自分のアウトプットも兼ねてお酒コラムにトライしています。
今日は一昨日の続きで「香り」についてです。
■今日のいい香り:穏やかで爽やかな香り「酢酸イソアミル」
どんな香り?
これはよく「バナナの香り」と言われます。
実はヴァイツェンというタイプのビールにも含まれており、ビール中だと舌触りも相まってまさにバナナのようなもったりした香りがするのですが、清酒において「酢酸イソアミル」は柔らかで穏やかな感じのする果実系の香りです。さわやかでありつつ、丸みもあります。
一昨日書いたりんご系の香りよりは主張しませんが、これも「吟醸」とつくお酒で見られる香りとなります。
りんご系の香り同様にリラックス効果があるのですが、こちらについては特に交感神経を抑制し、相対的に副交感神経の活動を高めてくれることが示唆されています。
…気になってきましたか?笑
このタイプでお勧めなのは、黒龍(福井県)や開運(静岡県)です。見かけたらぜひ。
何と表現する?
プロは「イソ系」「酢イソ」(さくいそ、です。すいそ、ではありません)などと表現しますが、日常では一般的ではありません。
りんご系の香りと区別して伝えるのが難しい(相手も分かっているかわからない)のですが、「フルーティだけど派手すぎない」「食事の邪魔をしない程度に、キレイな香りの」お酒と伝えてみてください。
■今日の残念なにおい:「イソアミルアルコール」
酢酸イソアミルは「イソアミルアルコール」という物質をもとにして作られます。このため前回と同様、酢酸イソアミルをたくさん持つお酒は、イソアミルアルコールも多くなる傾向があります。
このイソアミルアルコールは油性ペン、マッキーペン、ホワイトボードマーカーなどと例えられる、厚みのあるケミカルなにおいです。アルコールの仲間なので、つーんとした感じに思うこともありますが、少量であれば香りに厚みを持たせ、お酒を印象深くする香りでもあります。
またこの香りタイプのお酒に限らず、お酒一般的にお酒に見られる香りなので、過度でなければそこまで問題視はされません。
とはいえできるだけ効率よく酢酸イソアミルへと変換したいですよね。そのカギはこの反応に関わる酵素(AATFase)にあります。
ここから急に細胞生物学感だして恐縮ですが(笑)、AATFaseは細胞の中でも膜に存在しています。細胞膜は飽和・不飽和さまざまな脂質が集まって出来ているのですが、不飽和脂肪酸が多くなると細胞膜は柔らかくなります(流動的になります)。
この効果なのか(詳細はスミマセン分かりませんが)、不飽和脂肪酸が多いとそこに存在するAATFaseの働きが弱くなる(発現が抑制されると書いてある場合も)のです。
他にもAATFaseは高温を嫌う(20℃以上で速やかに、4℃でも1週間で半分に失活する)という性質が明らかになっています。
これらを踏まえ「不飽和脂肪酸を少なく」「低温で」という条件をそろえるためには「お米をたくさん磨いて(外側の部分をがっつり取り払って)」、「温度が上がらないように十分冷却して」、またこの副産物として「より時間をかけて」発酵させていくことになります。
つまりとても贅沢なつくり方が必要なのです。
おいしいのですいすい飲んでしまいますが(笑)、その奥にはつくり手さんたちの大切な時間と手間が詰まっている、とてもありがたい品なのです。
■おわりに
いかがでしたでしょうか?
これで吟醸香の代表的なもの2つを取り上げました。今後は、これから流行りそうな特徴的な香りや、既出の香りに関連したよくある香りについて書いてみたいと思っています。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
ではまた!