「ロデリック・ランダムの冒険」の和訳 Vol.1

執筆者 | 21/12/11 (土) | コラム

あっちゃんが企画しているバーの名前の由来となった小説、’The Adventure of Roderick Random(邦題:「ロデリック・ランダムの冒険」’の日本語訳は、1999年に荒竹出版から出版されていますが、現在は絶版となっていて、入手困難となっており、図書館の蔵書に頼らなければ、読むことが難しい状況です。

私も香川県の図書館の蔵書を検索してみましたが、一か所置いてある図書館が高松市内にあることが分かりました。これも是非読んでみたいと思うのですが、どうせなら自分で日本語訳に挑戦してみたいという気持ちが湧きましたので、とりあえずやってみようと思い立ち、第1章を訳してみました。また、後続のほとんどの章が冒頭に各章の伏線が書かれているので、先ずはその部分を和訳していこうと思いました。現在のところ、第15章までの伏線の和訳ができています。

ゆくゆくは電子書籍として出版できたらいいなという希望もあるのですが、気まぐれな私の情熱がどこまで続くかについては神のみぞ知るといったところです。先ずはPROGRESSの皆さんに拙訳の駆け出しをお読みいただいて、ご感想をお伺いしたいと考え、こちらに投稿することにしました。

「ロデリック・ランダムの冒険」 トバイアス・スモレット作 エリワイルド訳

Chapter 1

私の誕生と教育について

私はこの英国の北部で、かなりの財産と影響力を持った紳士であった祖父の家で生まれた。祖父は、自国のために名を上げる機会が多くあり、法律での能力で著名であった。祖父はその能力を、特に祖父が奇異なほどの嫌悪感を抱いていた物乞いに対し、裁判官として遺憾なく発揮した。

家政婦という身分で老紳士と一緒に暮らしていた貧しい生い立ちの母を愛するようになった父(祖父の末っ子)は、密かに母と結婚した。そして私はその婚姻の最初の産物であった。母は妊娠中にある夢に極度の不安を抱くようになり、母の執拗さに疲弊した母の旦那は、ついにハイランドの占い師に鑑定を依頼した。父は事前に賄賂によって好ましい解釈を確保しようとしたのであろうが、占い師はそのような買収に応じなかった。母はテニスボールを産む夢を見た。そのテニスボールは、(母が驚いたことには、助産師の役を演じていた)悪魔がラケットであまりにも強打したために、瞬時に消え失せてしまった。そして母はしばらくの間、我が子を喪失したことで悲しみに沈んでいた。すると突然、母はそれが同等な暴力をもって戻って来て、母の足元で地球に入り、その後、花を咲かせた見事な木が瞬時に生えるのを見た。その花の香りが神経にとても強く働きかけたため、母は目を覚ました。その思慮深い賢者は、しばらく熟慮したのちに、私の両親の長子はきっと偉大な旅人になると言った。多くの危険と困難を乗り越え、遂には故郷に戻り、活躍して幸福と名誉を得るであろうと。これがどれほど事実の通りに予言されていたかについては、後に記載されることになる。ほどなくして、あるおせっかいな人が私の祖父に、彼の息子と家政婦との間に起きていた何らかの親交について知らせた。祖父はそのことを警戒し、数日後、父にそろそろ実を固めてもいいころだから、縁談を用意したと話した。父は到底それに正当に反論できる立場ではなかった。父は、これ以上彼の事情を隠すことは不可能だと考え、彼の所業を率直に告白した。そして父は、そんなことをする甲斐はないであろうことは知っていたと言って、彼の父親の合意を求めなかったことを謝罪し、父の意図がもし知られてしまったら、祖父は権力を利用してその成就を首尾よく阻止するような方策を採っていたかもしれないとも言った。彼の妻の美徳や、出自、美貌、そして良識に対し、何ら物言いをつけることを許さないと言い、財産については、彼の知ったことではないと言い足した。その老紳士は、優れた冷静さですべての激昂を抑え込んで、癇癪を起こすこともなく最後まで父の言うことを聞いていたが、穏やかにどうやって自分自身と配偶者を養うつもりなのかと尋ねた。父は、祖父の優しさが続く間は何の不自由もないであろうし、父と彼の妻は常に祖父の優しさに最大限の敬意を払い続けるはずであり、祖父の手当が彼の家族の尊厳や状況に対しても、そして、祖父の加護の元で幸せに安住している、父の兄弟や姉妹にすでに与えられている糧に対しても、父への祖父の手当は妥当であると説いた。祖父は言った。「お前の兄弟や姉妹は、婚姻のような重要な事について私に相談することを厭わなかった。それに、もしお前が秘密の資金を隠し持っていなかったら、お前はその一片の義務を怠っていなかっただろうと私は思う。私がお前に残す慰めはこれだけだ。今夜お前と妻には別の住まいを探してもらいたい。近いうちにそこへ、お前の教育の際に私が暮らしていた前の住まいのつけをお前に送るつもりだ。返済してもらいたい。おい、お前は大旅行したな。お前は礼儀正しい紳士だ。とても可愛い紳士だ。お前に多くの喜びがあることを願うよ。私はお前の取るに足らない召し使いだ。」

そう言って、祖父は父を容易に想像できる状況に残した。しかし、父はそう長くは躊躇わなかった。と言うのは、祖父の気質を完璧に熟知していたので、父を排除するための口実ができたことを喜んでいることを疑わなかった。そして、祖父の決意は、メディア人とペルシア人の法律と同じくらい不変であり、祈りや懇願で祖父に挑んでも甲斐はないだろうと知っていた。父は絶望した寝床の連れ合いと共に農場の家屋に行ったが、そこには父の母親の昔からの召し使いが住んでいた。そこで彼らは、彼らの優雅な愛の願望と優しさには似つかわしくない状況で、しばらくの間過ごした。しかし、父は人道にもとる強情な親に嘆願するよりは、辛抱することを選んだ。しかし母は、この場所に移されてから、彼女が晒されているに違いない不都合を察知し(そして母の妊娠期間はかなり進んでいたのだが)、夫に自分の企てを伝達することなく、祖父の家に変装して出向いた。自分の涙と状況が祖父の同情を誘い、今や取り返しがつかないほど過ぎてしまった出来事について、祖父と和解できることを期待して。

母は召し使いを騙し、何らかの結婚生活での不満について申し立てをしたがっている不幸な女として紹介してもらうという方法を見出した。それは、あらゆるスキャンダルの中でも祖父が審判する得意分野だった。従って、母は祖父の居所に入ることを許されたが、そこで母は素性を明かし、祖父の足元に崩れ落ち、最も情に訴えるやり方で祖父の許しを請うた。それと同時に、母の命だけでなく、祖父自身の孫の命をも脅かしている危険が、世間の明るみに出ようとしていることを打ち明けた。祖父は、母と父の無分別が原因で祖父が誓いを立てなければならなくなり、彼らに何ら援助を与える権限も祖父にはなく、その件についての祖父の考えは彼女の夫にすでに話したのだから、しつこくせがんで祖父の安穏をかき乱すとは驚きであると話した。こう言って、祖父は立ち去った。

苦悩の暴挙により母は酷く打ちのめされ、たちまち母は出産の痛みに襲われた。祖父の不機嫌を買う危険を冒して、母に慈悲と援助を与えていた、母がとても頼りにしていた老いた召し使いがもしいなかったなら、母とその子宮の無垢な産物は、祖父の厳格で残酷な仕打ちに対し惨めな犠牲者に落ちぶれていたであろう。この哀れな女性の友情により、母は屋根裏部屋に運ばれ、そして直ちに男の子を出産した。それが現在自らの不運な出生について物語っている人物である。父は、出来事を知らされ、愛する配偶者を抱きしめるために急ぎ帰り、父親としてその子を抱き抱え、悪天候から守られない惨めな住まいの、ぼろぼろの寝床に横たわった最愛の連れ合いを見つめて堪えられずに累々と涙を流した(母のためなら父は東洋の財宝も犠牲にしていたであろう)。老紳士がその出来事を知らなかったはずはなかったが、祖父はその事については何も知らなかったかのように振舞い、他界した長男の子で、明らかに祖父の後継者として祖父と暮らしていた孫の一人が、その出来事を祖父に知らせた時、ひどく驚くふりをした。従って、祖父は何ら情報媒体を見ないように決めたが、すぐさま(出産の三日後)、母に横柄な退去命令を送り、母の命を救った召し使いを解雇した。この行為で父は非常に憤激したため、この上なく恐ろしい呪いに頼り、もし父の雄親の残虐さを父が忘れたり許したりするようなことがあれば、天が父との縁を切るようにと、むき出しの膝をついて嘆願した。

この不幸な母親がそのような境遇で免職されたことにより受けた傷や、母の居所での必需品不足、そして母の悲しみと精神不安が相まって、母は間もなく心の病を患い、自身の命を絶った。母をこよなく愛していた父は、母の死に冒され、六か月の間感覚を喪失し続けた。その間、父の居所の人々が、少し気持ちが穏やかになった老紳士の元へ、赤子を連れて行った。自分の義理の娘の死や、息子の嘆かわしい状況についての憂鬱な物語を聞き、子供を乳母の元に送り、父を自分の家に連れてくるように命令したが、そこで父は間もなく正気を取り戻した。

この冷酷な判事が、息子と娘を残酷に扱ったことについて悔悛していたのか、それとも(よりあり得るのだが)、祖父の性格が近所で悪評の元になることを恐れたのか、祖父は父に対する自分の行為に関して酷く悲しんでいると告白した。父はせん妄の後、深い憂鬱を抱き、緘黙になった。ついに父は失踪し、草の根を分けての捜索が行われたにもかかわらず、消息が途絶えた。絶望の発作で自らの命を絶ったのではないかと、大半の人々の意見が確認されるような状況だった。私の出生に関する詳細について、私がどのように理解したかについては、この回顧録のうちに記されるだろう。

Chapter 2

私は成長する―親戚に疎まれる―学校に送られる―祖父に放置される―校長に虐待される―逆境に慣れる―空論家に対抗する陰謀を企てる―祖父に近づくことを禁じられる―祖父の後継者に追い出される―彼の家庭教師の歯を破壊する

Chapter 3

母の兄が到着する―私は安堵する―彼についての描写-彼は私の祖父の家に私と一緒に行く―祖父の犬たちと出くわす―流血の決闘の末、その犬たちを撃退する―その老紳士との面会を許される―彼らの間の談話

Chapter 4

祖父は遺言書を作る―私たちの二度目の訪問―祖父が逝去する―祖父の遺言書がすべての遺族の面前で読み上げられる―私の女の従妹たちの失望―私の伯父の行動

Chapter 5

教員が私を残忍に利用する―私は復讐の計画を企てるが、私の伯父により支援される―私は村を去る―伯父は気前良く私を大学に通わせる

Chapter 6

私は学業で大きく進歩する―みんなに親切にされる―私の女の従妹たちが私に注目する―私は彼女たちの招待を拒絶し、彼女たちは激怒し、私に対抗して共謀する―私の伯父に降りかかる不幸により私は極貧の状態で残される―ゴーキーの裏切り―私の復讐

Chapter 7

クラブ氏の歓待を受ける―彼についての描写―私は外科手術の技能を習得する―クラブの意向を伺う―彼に必要な存在となる―ある事故が起きる―彼は私に世界に乗り出すよう助言する―私に金銭的な援助をする―私はロンドンに出発する

Chapter 8

私はニューキャッスルに到着する―私の昔の校友のストラップと会う―私たちはロンドンまで一緒に歩いて行くことを決心する―私たちは旅立つ―人里離れた酒場に泊まる―その夜の奇妙な冒険に不安を抱く

Chapter 9

私たちは旅を続ける―ストラップに発砲する追い剥ぎに襲われる―馬乗りの一行により私への発砲が阻止され、彼らは追い剥ぎを追って馬に乗っていく―ストラップは宿屋で寝かされる―その宿屋での冒険

Chapter 10

追い剥ぎが捕らえられる―私たちは彼に対する証拠人として拘留される―次の村に歩を進める―彼が逃げる―私たちは別の宿屋に着き、就寝する―その夜恐ろしい冒険に目を覚まし、その次の夜はある教員の家に泊まる―そこでの私たちの処遇

Chapter 11

私たちは遠くに馬車を見つける―それに乗る―宿屋に着く―私たちの仲間の旅人たちについての描写―ストラップによって犯された過ちが奇妙な物事を生み出す

Chapter 12

ウィーゼル船長がストラップに決闘を申し込むが、彼は闘いを拒否する―船長と私の間の出来事―高利貸しが保釈金として5ギニーをジェニー嬢に喜んで与える―私たちは食事を失う危険に晒される―その場面でのウィーゼル、ジェニー、そしてジョーイの行動―ウィーゼル船長と彼の恋人についての説明―船長の勇気が試される―船長を犠牲にしたアイザックの浮かれ騒ぎ

Chapter 13

ストラップと私は幽霊に恐怖する―ストラップの推測―その謎がジョーイによって説明される―私たちはロンドンに到着、私たちの服装と外見についての描写―私たちは通りで侮辱される―酒場での冒険―滑稽な下男に脅迫される―タバコ屋に正される―下宿する―夕食を貪り食う―私たちの宿の食堂での事件

Chapter 14

私たちはストラップの友人を訪問する―彼についての描写―彼の助言―私たちはクリンジャー氏の家に行く―立ち入りを拒否される―ある事件がストラップに起こる―それに関する彼の行動―尋常ではない出来事が起き、その過程で私は全てのお金を失う

Chapter 15

ストラップが道徳を説く―彼の財布を私に与える―私たちは主人に私たちの不運について知らせる―彼はその謎を解く―私はクリンジャーの所に出向く―彼はステイテイプ氏を推し、私を彼に委ねる―私はある居候仲間と知り合いになるが、クリンジャーとステイテイプの性格を説明してもらう―そして海軍事務所と外科医館で採るべき方法について知らされる―ストラップが雇われる

最後までお読みいただきありがとうございます。
今後、翻訳を続けられるかどうか分かりませんが、応援くださいましたら嬉しいです。

執筆者 | 21/12/11 (土) | コラム


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