最近のPROGRESSはビジネスの話題が多くて楽しい。
ビジネスは僕にとって身近なものだからだ。
とりわけ転売ビジネスについては、古着専門のリサイクル店を15年続けてきた経験からなじみが深い。
しかしながら転売に対する世間の目が様々だ。
PGツイッターでの懸念の声は、とてもいいタイミングでの発信だったと感じている。
そして、その声を受信したあっちゃんの反応も適切だったと思う。
多様性を受け入れる時代、小さな懸念も疎かにしないことが大切だと思う。
それを踏まえた上で、うちの店に集まるセドラーたちのことを今回書き綴っていきたい。
彼らはどんな人物か?~古着セドラー~
一口に“せどり”と言っても、形態は様々だ。
人気ブランドを買い占め高額転売する輩もいれば、ノーブランド衣料を自分のセンスで買い集め自分の顧客に売り歩く者もいるし、リメイクして販売する者もいる。
世間で非難されているのは高額転売者だが、彼らの問題点は人海戦術による買い占めと定価以上の高額転売で、本来の市場そのものが消滅してしまっているからだ。
販売量を絞ってリセールバリューを維持しようとするメーカー側の戦略を逆手に取ったやり方で非難は当然だろう。
ではノーブランドはどうだろう。これらはそもそも高額転売自体があり得ない。
うちの店は、ハイブランドを一切扱わず、最大の売れ筋がUNIQLOという筋金入りの庶民派リサイクルショップだ。
だから高額転売の連中は集まらず、その他のセドラー達で賑わっている。
経歴はハッキリ言って様々だ。
年齢も10代から70代まで。
転売が専業なのか副業なのかもバラバラ。
アパレル関係の仕事に就いていた者もいれば、無関係の業界の者もいる。
転売のやり方も、商店街の露天商もいれば、アメ村に古着店を持っている者もいる。
また、アパレルショップのない田舎町の中高生に転売する者や、SNSのフォロワーに向けてライブコマースで販売する者もいる。
ジャンルも多様だ。
ヨレヨレの使用感のあるTシャツばかり買う者、ヒッピー風のコーデをする者、女装・男装のコーデ布教者、UNIQLOのジーンズにダメージ加工をして再販する者。
共通項は?
“服が好き”ということと、
“大半が一年以内にいなくなる”ということ。
しかし、成功者もいるのだ。
僕ら店の人間には、それが誰なのかが確実にわかる。
成功の本質、それは商売の本質だと僕は考えている。
ご興味ある方は、この先まで読み進めていただきたい。
まずは、夢のある話からしたい。
彼らはどのくらい稼いでいるのか?
成功者は、3年毎に車を買い替えるくらいの収入を得ている。
10年生き残っているセドラー達は、おそらく年100万くらいは余剰資金ができていると僕は読んでいる。
月にして10万円弱の利益確保だ。
専業のセドラーは生活費部分があるから、稼ぎは副業より多いが余剰部分は同じようなものだと思う。
服の転売で成功できるなんて、一握りの感性の優れたすごくおしゃれな人たちなんでしょ?と思われるかもしれない。
数の上では確かに一握りだ。
ただ、「感性の優れた」、「すごくおしゃれな」人たちが成功するわけではない。
「服が好きであれば、ある程度成功する可能性は高い」と言っても言い過ぎではないと個人的には思っている。
では、どんな人たちが成功するのか?
仕入値の10倍以上で値付けできるか?~在庫リスクの回避~
成功者を語る前に、失敗する人を知ることが有益だ。
失敗する人には、ハッキリと共通項がある。
それは、1,000円で買ったものを1,500円で売ろうとすることだ。
この値付けなら1枚売れるごとに500円の利益が出る。
失敗する人は、大抵1枚当たりの利益で考えている。
どう考えればよいのか?
例えば、1枚ではなく3枚で考えることだ。
1枚で500円の利益だから2枚売れれば1,000円の利益になる。
でも、1枚売れ残ったら仕入値の1,000円は丸々回収できない。
3枚を3,000円かけて仕入れたのに、売れたのは2枚で3,000円で利益は0のままだ。
つまり、この値付けでは、仕入量の1/3が売れ残るだけで、トータルの利益は0になってしまう。
この売れ残るリスクが在庫リスクだ。
通常、思った値段で売れる枚数は、売り場に出した数の10%程度。
10枚に1枚が思った値段で売れる。
だから仕入値の10倍の値付けができる人しか生き残ることができない。
ぼったくらないと無理?~転売業の付加価値~
じゃあ、成功者たちは1,000円のものを10倍の1万円で売っているのか?ぼったくりじゃないのか?
そうではない。
成功者たちは、300円以下で買ったものを1,000~3,000円で売っているのだ。
うちの店は毎週金土日に100円市を開催し、毎月20日に全品半額セールをやる。
そこで彼らは大量の仕入を行い、一月かけて売りさばいていくのだ。
それでも10倍はないんじゃないの?と思われるかもしれない。
それでは10倍という比率ではなくて、100円のものを仕入れて900円の利益を乗せる、と考えてはどうだろうか。
彼らのお客様から見れば、この900円は彼らの買付けに対する報酬だ。
この報酬は、目利きへの信頼の表れであり、買付の労力に対するものである。
つまり、転売業の付加価値なのである。
「モノの価値を10倍で」と聞けば驚くかもしれない。
しかし、「人の価値として900円」と聞けばどうだろうか?
しかも、この900円は成功報酬だ。
売れた分にしか支払われず、売残りの仕入値は売主負担になっている。
目利き力がないと無理?~高い値付けを成立させるには~
ここまで読んでくださった方の中で、「あれ?これ儲からないんじゃないの?」と考えられた方は、正しい感覚をお持ちだと思う。
10倍の値付けをしても1/10しか売れないんじゃ、自分の取り分なんて確保できなくないか?良くてトントンじゃないか?
その通り。だから10倍以上で値付けすることが必要だ。
では、どの服を10倍以上で値付けできるのか?どれが売れ筋なのか?目利きが肝心だ。
売れ筋の見極め方の極意がある。
心してお聞きいただきたい。
100円で仕入れたものを3,000円で値付けて並べる。
そして売れたもの。それが売れ筋だ。
「馬鹿にしてんのか」と思われた方には、この続きを聞いてもらいたい。
当然、何もしなくて3,000円で売れるわけはない。
大事なのは「3,000円の価値を説明できるか」ということだ。
その説明とは、コーディネートの方法であったり、素材や着心地であったり、ライフスタイルをどう変化させるかであったり、お客様にその商品の良さを伝えることだ。
もちろん営業トークだけではない。SNSで画像や動画を投稿し、“世界観”を伝える方法もある。
この人が着ているモノを、“世界観”を共有してみたい。
そうする中で「3,000円払ってもいい」と思っていただけたなら、あなたは新たな価値を生み出したことになる。
つまり、目利きとは“売れる商品を見つけること”ではなく、“商品価値を説明できるポイントを見つける”ということなのだ。
高くても本当に売れるの?~値下げはお客様とのコミュニケーション~
勿論、100円のモノが、話術一つで3,000円で飛ぶように売れるわけではない。
そして同時に、3,000円で売れる話術を磨きなさい、という話でもない。
当然売れない場合は、値下げしていくことになる。
話の前に“売れ筋”の話を思い出して欲しい。
そこでは、「何が売れるかわからないから、とりあえず3,000円で並べろ」ということだった。
並べて初めて売れ筋がわかる。
フリマで売ったことがある人ならわかると思うが、手に取って見てはもらえるが買われない商品がある、そういうことに気づくことがあったのではないか?
それが売れ筋の兆候だ。
そして、その商品の値札を手書きで10%OFFと書き、さらに反応を見る。
ネット販売でも、ビュー数やコメントなど、反応がある商品を値引いてみる。
“値下げ”という手段を使って、お客様の購買力を探っていくのだ。
そのうち、直接の値引き交渉を持ちかけてくるお客様も出てくるだろう。
直接交渉をしないポリシーもOKだが、値下げするとなったなら、丁寧に、親切に、そして特別感を出して応対してあげることがとても大事だ。
これが後々の信頼関係につながっていく。
値下げの分、お金が手に入らないのだから、しっかり信頼を稼いでおかないともったいない。
このように『値段』を鍵に、お客様の状況を探り、つながりを作っていく。
究極的に売る側と買う側は、『値段』によってのみつながっているのだ。
商品の魅力や説明の旨さ、世界観といったスパイスは、より購買力のあるお客様とつながるための補助的な役割でしかない。
古着せどりのメリット・デメリット
どうだろう?ここまでで自分にもできそうだとの感触を得た人は増えただろうか。
ここまでのポイントをまとめると
①在庫リスクを避けるために高い値付けが必要だ
②高値で売るために、商品のポイントや自分の世界観を伝えよう
③適正価格を探るために値下げしよう
ということだ。
特に事業継続のためには①が重要だ。
100円のモノを10個、合計1,000円仕入れたとする。
これが10個のうち1つでも3,000円で売れれば、1,000円の仕入値を回収でき、さらに2,000円分の仕入の原資ができる。
3,000円で売れなくても仕入値さえ回収できれば、あとはどんどん値下げして利益を確保していく。
そして、いよいよメリットを説明に入る。
この手法をとれること自体が、『古着せどり』の最大のメリットだ。
どういうことか?
古本や家電、トレカやフィギュアだと同じ方法は通用しない。
同じ方法とは、100円で仕入れたものを3,000円で売るということだ。
この方法は“相場がある商材”には通用しない。
相場がある商品とはどんなものか?
それはバーコードのついているもの、貴金属、高級時計、ハイブランドだ。
バーコードのついているものはバーコードスキャナというもので、今の価格帯を調べることができる。
店舗せどりの必須アイテムだ。
そして金、プラチナには相場があるし、ロレックスやヴィトンなどは業者市があって、そこで相場が決まる。
これらは売値が決まっているので、どれだけ安く買えるか?が問われる商材なのだ。
つまり、いくら営業トークをしてみても、相場を知っている人には全く相手にされない。
しかし、古着には相場がない。
だから自分の力で付加価値を付けられるのだ。
古着は全て一点もの。今は販売されていないデザインばかりだ。
それを掘り起こしてくる付加価値。
今、Z世代の中では昭和ブームだ。
白のダブルのスーツが、業者の間でも取り合いになっている。
リメイクする付加価値。
200円で買ったユニクロのジーパンにダメージ加工をする。
これを2,000円で売る。
新品だと値段が合わないし、元はユニクロだろ?と思われる。
“古着で買ったから”、受け入れられる。
このように自分たちの個性、発想、実力が付加価値を生む。
そこが『古着せどり』のメリットだ。
ではデメリットは何か?
やはり売残りがどうしても出る、ということだ。
どんなに説明を尽くし、世界観に共感し、値段が折り合っても、サイズが合わないと買ってもらえない。
一点ものの最大の弱点だ。Mサイズを用意しても、欲しいとなったお客様がそのサイズとは限らない。
そして、これもアパレル全般に言えるが、季節商材であるということだ。
シーズン中に売り切らないといけないという賞味期限付きなのが、とてもつらい。
置いておく場所もないとなれば、どうにか処分するしかない。
どのセドラーも聞いてみると、一部屋分くらいはデッドストックがあると言う。
そんな時、彼らはどうするのか?
そう、うちの店に持ってくるのだ。