この文章を読んでくれている方が何歳だとしても、「写真」や「映像」を見た瞬間に心を奪われてしまった経験が一度や二度あるのではないでしょうか。
それは食べ物の写真かもしれないし、華麗に踊っている映像かもしれません。もしくは食べ物や踊りではなく、楽しそうに食べ物を作っている人や、輝きながら踊っている人に心を奪われた経験かもしれません。
北海道で生まれた彼女にとって、それは「場所」でした。15歳の時に見た一枚の写真が、その後の彼女の人生を語る上で欠かせなくなっています。
その写真に写っていたのは「沈没船」。
それは、青い海と白い砂とともに写っていました。
(行きたい!)
山が身近にある場所で生まれ育った彼女にとって、その景色は衝撃的で、写真を見た瞬間、自分でも気がつかない間に強くそう思っていました。
中学生の時から強く惹かれ続けてきている彼女は、その後、人生で三度、その場所へ訪れることとなった。
『小笠原諸島』
沈没船が写っていたのは小笠原諸島だった。住所は東京都。しかし、東京都から約1,000キロメートル南南東の太平洋に位置している。
30余の島々からなっているが、民間人が居住するのは「父島」「母島」の2島のみ。父島・母島には空港がないため、船でしか行くことが出来ない。
メインとなっている船は、ほぼ一週間に1便発着する定期船「おがさわら丸」で、東京の竹芝桟橋から出航している。
小笠原諸島が「東洋のガラパゴス」とも呼ばれているのを、聞いたことがある人も少なくないかもしれない。
大陸から隔絶されていて、独自の進化をした貴重な動植物を見ることができるあの場所に、彼女は惹かれていたのだ。
『初めての小笠原』
初めて小笠原諸島を訪れたのは、彼女が大学生の時だった。
「おがさわら丸」が出るのは週に一便。就職すると行けなくなると考えていた彼女は、働き始める前にどうしても行っておきたかった。
友人が他の場所へ卒業旅行へ行く中、彼女は一人で向かうことにした。
2022年現在は約24時間で到着するが、当時はもう少し時間がかかっていた。憧れの景色に向かって一人で船に乗っている彼女の心境は、心細いどころかワクワクしかなかった。念願の場所と対面できる時が遂に来たのだ。
当時は、今のようにSNSやスマホがない時代。電波もなく、知り合いもいない、大学生の一人旅。
(あの写真の場所を実際に見てみたい)
その一心で向かっていた。いや、彼女が向かっているというよりも、それは島に導かれている感覚に近かった。
中学生の時から8年以上経っても忘れられない景色。ついにその地に足を降ろす日が来た。
青い海。白い砂。イルカと遊泳。現地の人との交流。
そこで体験するすべてが、歓びだった。
『二度目の小笠原』
二度目に行く機会が訪れたのは24歳。新婚旅行の時だった。
酪農家の男性と結婚することになり、一緒に仕事をしていく覚悟はできていた。それと同時に、今後、長期の休みを作ることが難しくなることも分かっていた。
自由に動けなくなる前に、どうしてももう一度行っておきたい。大学生の時に初めて体験した歓びが、何年経っても忘れられなかった。
二度目の小笠原。感動は薄れるどころか、より増していた。
一度目ほどお金を使えなかったが、お酒も飲めるようになっていて、おがさわ丸で向かっている最中や小笠原諸島にいる人と飲みながらコミュニケーションを取れるようになっていた。
一度目とは違う、今だからこその楽しみ方ができた。楽しみ方は変わっていたが、歓びで満たしてくれる場所には違いなかった。
『三度目の小笠原』
もう二度と行けないと覚悟をしていた彼女に、三度目の機会が訪れた。
離婚後のことだ。酪農家の嫁として過ごしていたが、その役割を終え、新たな章をスタートさせる時がやってきた。長期で自分の時間を作れることになった途端、待っていたかのように小笠原の存在が彼女の頭に蘇ってきた。
(今ならまた行ける)
10年以上経過した今回は「二度目の上書きをする」という目的があった。しかし、到着するとこれまでとは別の場所のように感じてしまった。
これまで透き通るように綺麗だった海が、台風の影響で汚れてしまっていた。それだけでなく、気温も想像以上に低かった。綺麗で暖かい場所と思って来た彼女にとって、この2つの差は大きかった。
それでも歓びで満たされた。今もまだ、好きなのに違いなかった。
24時間かけて船で行く最中に出会った人たちとの交流。島に到着してから出会う人々とゆったりと過ごした時間。環境も心境も変わっている三度目だからこその楽しみ方が出来た。
小笠原から戻って来てからもまた行きたくなっているし、将来は住みたいとも考え始めるようになった。それだけでなく、他の人にも小笠原の魅力を体感してもらいたいと思うようにもなっている。
なぜそこまで惹かれているのか?
それは本人にも分からない。
「好きだから」
それ以外に理由なんてないかもしれない。考えて言葉にしようとすると本質から逸れるかもしれない。それでもあえて言葉にするなら「北海道ではない景色がそこにあったからかも」と、言葉を選んで出してくれた。
生まれた場所が心地いいと思う人もいれば、生まれた場所には “ない場所” が心地いいと思う人もいる。
寒く山に囲まれている場所で生まれ育った彼女にとって、海や砂浜、気候や香り。そして「自分の好きな場所が好きという似た人たちとの出会い」。滞在期間中に触れるあらゆるものが、彼女の歓びと一致していた。
もし写真に写っていたのが、沖縄なら沖縄だったかもしれないし、他の国なら他の国だったかもしれない。
無限にある風景の写真の中から、出会った場所が小笠原だった。「運命」というと大袈裟かもしれない。しかし、ただの偶然といえば薄っぺらく感じてしまう。
個人的には、そこまでして心が奪われる場所に出会えているのは幸運のように思えてしまう。
これまでもどうなるか分からなかったように、これから先のことはどうなるのか分からない。ただ、時が満ちたら、きっと彼女はまた導かれていくのだろう。
◯あとがき
このお話をしてくださったのはPGメンバーの武井 風子さん。
小笠原へ行く前や、到着してからTVしてくれています。
小笠原諸島へ行く前【Jaguatattoo×ART】
風子さんは、僕が「一年の棚卸し(振り返り)をしたい方」を募集した時に「おもしろそう!」とメッセージをくれました。
この文章は個人的にお渡しするつもりで書いていたのですが、許可をしてもらえたのでコラムにも投稿させて頂くことにしました。
風子さんは現在、西日本一のキャンプ場を経営されているPGメンバーの南畑 義明さんが手がける新施設「IN THE OUTDOOR」でスタッフとして働かれています。
ここからは告知になるのですが、「IN THE OUTDOOR」は、たくさんのPGメンバーの手が加わり間もなくOPENするグランピング施設です。
「グランピング」とは
キャンプとホテルの良いとこどりのような施設。
手ぶらで来れて、美味しい料理が食べれて、焚き火を囲んで楽しむことができる場所。
来月、プレオープン企画として、PROGRESSメンバー貸切でグランピング体験会が開催されます。都合の合う方、興味のある方はぜひ素敵な時間を過ごしてみてください。
①5月3日〜4日
②5月21日〜22日
③6月4日〜5日
IN THE OUTDOOR(グランピング施設)の詳細は、2022年4月1日にTV配信されています。
最高のグランピング施設を作ってるんだが体験してみないか?
※BGMが流れます
▼配信者
南畑 義明
米倉 八潮さん
田口 唯斗