カフェで始まるストーリー

執筆者 | 21/03/23 (火) | コラム

このお話はフィクションです。(場所がどことか、出てる人が誰とかじゃないから。)

ここは、駅から少し歩いたところにあるおしゃれなカフェ。

今日も1人の常連客の女性が扉を開け、店内に入るといつものお気に入りのテーブルに座りました。

マスターがお水を持ってきて、声をかけます。「おや?どうしました?」女性が泣いているではありませんか。

「彼と喧嘩したの」女性は話し始めました。

「急に『ラーメン屋をやる』なんて言い始めて。それに、今まで貯めてきた結婚資金使ってもいいか?なんて、全く訳が分からなくて!・・・気がついたら家を飛び出してたの。今の仕事に不満があるなんて一度も聞いたことがないし。先週だって新卒で入社して10年になったから会社のみんながお祝いしてくれたって言ってたのよ。もう、一体なんだっていうの!?」

女性店員がコーヒーとティラミスを持ってきました。彼女が来るといつもこの2つを頼むので、最近では何も言わなくても出てくるようになっています。彼女はずっとうつむいています。

女性店員が立ち去るのを見送り、マスターは話します。「・・・人と人とが繋がる。そんな場所を作りたくて私はカフェを始めました。ここで2人が初めてオフラインで出会うようになって、2人から結婚します!って聞いた時本当に嬉しかったなぁ。このカフェを始めて本当に良かったな、って、思いました。・・・いつも真面目に仕事を続けてきた彼のことですからきっと、ラーメン屋を始めたいちゃんとした理由があるのではないでしょうか。」

マスターが窓の向こうの人影に気付き、ニコッとしました。「お話、しっかり聞いてあげてくださいね。」マスターはキッチンに戻って行きました。と同時に勢いよくお店に入ってくる男性の姿がありました。

「やっぱりここか。」彼は向かいの席に着席します。

「急に、あんなこと言い出してごめん。びっくりさせてしまったね。」

彼女はうつむいたまま、ゆっくりとコーヒーを飲んだ後、言いました。

「・・・話、聞くわよ。ちゃんと理由を話して。」

彼は、マスターに出された水を1口飲み、話を始めました。「俺さ、社会人になってからしょっちゅうお昼に通ってるラーメン屋があるんだ。大将の作るラーメン、チャーハン、餃子・・・どれもすっごく美味しくてさ。会社の周りにあまりお店がないのもあって、お昼時は混み合うからいつも相席になるんだけど、結局お客さんとも顔馴染みになっちゃって。最近仕事どう?なんて会話するくらい仲良くなってるんだ。」

女性店員がコーヒーとシフォンケーキを持ってきました。彼はいつもこの2つを頼むのでやっぱり何も言わなくても出てきます。彼は女性店員に会釈をして話を続けます。彼女はコーヒーを持ったまままっすぐ彼のことを見ています。

「でも、大将から、もう歳だからそろそろ店畳もうとしてるって話を聞いてさ。後継ぎもいないからもうお店がなくなっちゃうんだ。俺、大将も、お客さんも大好きだからさ。この場所を無くしたくなくて・・・今の仕事には何も不満はないよ。でも、ここまで仕事続けてこれたのもあのお店で大将に仕事の愚痴を聞いてもらったり、お客さんとくだらない話とかしていい気分転換になってたりしたからなんだ。・・・俺、どうしてもあの場所を無くしたくないんだ。もちろん、君との幸せのことは最優先に考えてる。でも、お店のことに関しては、どうしても時間がないんだ。この通りだ!頼む!」彼はテーブルに手をついて頭を下げました。

彼女はコーヒーを飲み、大きく深呼吸しました。

「そんなに美味しいお店なら、今度連れってってよ。」彼はハッとして頭を上げます。彼女は笑顔でやさしく話しかけます。「一緒に、大将とお話しに行こう。」

「ありがとう!俺、頑張るから!絶対頑張るから!」彼は涙を流しながら喜んでいます。

とある日の、昼下がりのカフェのお話。

執筆者 | 21/03/23 (火) | コラム


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