progressと私-僕と君のprogress、不思議な春の物語-

執筆者 | 22/11/22 (火) | コラムコンテスト

 

僕が住むアパートの一室には特徴がある

深夜、上の部屋からドタドタと足音が鳴り響くのだ

それはほぼ毎晩で静かな夜は逆に不安にさえなる

ある朝、玄関のチャイムが鳴った

今日から上の部屋に越してきたという女性が挨拶に来たのだ

そう、もともと上の部屋は空室だったのだ

その夜いつもの足音が自分の部屋から聞こえることに気がついた

「夜は静かにしてくれるかな」

僕がそう言うとすぐに返事があった

(だって僕の部屋に人が来て遊ぶところないんだもん)

そしてこの奇妙な同居生活が始まる

名前は”ハル”

春に出会ったからだ

一応、猫だ

僕とハルは毎晩遊んだ

猫じゃらしを持った僕をハルが追いかける

ハルは納豆が好きで、よく顔中ねばねばにしている

ハルが僕のぬいぐるみをボロボロにした時は少しケンカになって、初めて別々に寝た

でもいつの間にか布団に潜り込んできてる姿に僕は許してしまう

もともと引きこもりがちだった僕は、最近なんだか毎日楽しい

ハルのおかげだ

それとprogress

僕はパソコンの前で progressに没頭するようになった

それと引き換えにハルが一人で遊ぶ時間が増えていった

ハルがキーボードの上に乗ってきた時、僕は冷たく「邪魔」と言った

ハルは猫じゃらしを咥えたまま部屋の隅で寝転んでいる

あるときハルがいつもより小さい声で言った

「最近はすごく楽しそうでうれしいよ」

翌朝

 

ハルの姿はなかった

そのとき僕は、なぜか理由がすぐにわかったんだ

ハル、君はまた別の人のところに、春を届けに行ったんだね

ハル、僕はもう大丈夫

僕の心にはいつもハルがいてくれて

そしてprogressがあるから

今は孤独じゃないよ

でも時々思うんだ、君にもう一度触れたいなって

ハル、こっちはもうすっかり冬で、毎日寒くなったよ

君と過ごした春の思い出は僕の心に温もりをくれる

それは君が布団の中に潜り込んできた時のようにとても暖かいんだ

僕はこれからキャッシュレスの世界でキャットレスで生きていくよ

 

執筆者 | 22/11/22 (火) | コラムコンテスト


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