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あの伝説の日、私は『さくさく勉強作業部』のメンバーと変わらぬ朝を迎えていた。
鴨志田さんは朝７時から自分の仕事を始め、シリコンバレーはサンノゼののいづみさんはお料理の最中だった。
嵐の前の静けさとはよく言ったもので、何も変わらないいつもの風景だった。
ただ違ったのは、10時から始まるあっちゃんの挑戦を3人共楽しみにしていたという点だけだろう。
500万人まで残すところ3万人程度。
全体と比べれば0.6％増やすだけの作業。
あっちゃんも言っていた通り、早く終われば12時間を待たずに終了。
3，4時間程度なら、いづみさんの就寝時間前に終わるだろう、そう思っていた。
普段は作業に没頭して無言で作業する『さくさく』メンバーも出だしからチャットで話を始めていた。
最初に異変に気付いたのは鴨志田さんだった。
「今のペースでは到達しませんね…。」
１時間経ってみて登録数の増加は1,000人余り。
「倍のペースでも13時間以上かかります。」
この話に対して私は
「午前中は大掃除で忙しくしてるから本番は夕方以降でしょ！」
と軽く返していた。
それほどまでに状況を楽観視していたのだった。
何しろ6時間など軽くしゃべりきる男だ。
最悪12時間話し続けることになるにしろ、長ければ長いほど数値の達成は容易だろうと。
しかし一抹の不安もあったので、1時間ごとの記録を取ることにした。
10-11時 1,032人増 17人／分
11-12時 1,284人増 21人／分
12-13時 2,498人増 42人／分
途中急激に回り始めた瞬間があった。
鴨志田さんが「誰かの告知があったみたいですね…。」
コメント欄をよく見ると、それがスカイピースだということが分かった。
分速42人の維持が目標達成に必要な数値。
それをスカイピースが支援してくれた！
しかし現実は厳しい。
その支援効果も期限付きのものだった。
やはりあっちゃんの地力が問われるのだ。
13-14時 1,494人増 25人／分
14-15時 1,199人増 20人／分
15-16時 1,477人増 25人／分
休息も食事もとらず話し続けるあっちゃん。
独演会や長編授業でも見た姿だが、前人未到の12時間を意識すると少しでも休息をとって欲しい。
その思いで初めてのスパチャを送ってみた。
やり方が分からず空メッセージを送ってしまった。
仕方ないので、もう一度メッセージ付きでスパチャを送った。
すると私の2度のスパチャに挟まれて、しぎょうさんのスパチャがあることに気づいた。
私は今期の放送室で、しぎょうさんにスポンサーし続けたので、スパチャで並ぶことに不思議な偶然を感じた。
そしてよく見るとpgメンバーのスパチャが飛び交っていることにも気づいた。
いつの間にか知り合いがこんなに増えたんだな。
そういう想いに包まれた瞬間だった。
16-17時 1,738人増 29人／分
17-18時 1,248人増 21人／分
18-19時 1,654人増 28人／分
19-20時 1,752人増 29人／分
7時間を目前にして藤森さん登場。
戦場に一人立つ相方を見てどう思ったのだろうか。
大学生のように地べたに座り、何とか友を労わろうとする姿が、生の二人の関係を現わしていて心地よかった。
これだけ色んなものを手にした二人が、何も持っていない、これから手に入れようとする二人に見えた。
しかし数字の動きは非情なもので、20時時点で残すところ1万8千人。
1時間当たり9千人、1分当たり150人、これは今までの5倍の速度で伸びなければならない。
20時00-15分 525人増 35人／分
20時15-30分 750人増 50人／分
20時30-45分 737人増 49人／分
20時45-21時 1,119人増 75人／分
数字が動いたのは20時を過ぎたあたりだった。
人が動く時間帯だったのだろうか。
このあたりからコメント欄の熱が加速し始めた。
飛ぶように流れていくコメントの中に、マキッキーのスパチャを見つけた。
私も呼応するようにスパチャを送った。
「ナイスパ！」のコメントがpgメンバーから送られる。
マキッキーからも私の名前を呼んでくれていた。
気が付けば圧倒的な熱量の祭りの中心に引き込まれていった。
話題は『Youtube大学の宣伝』になっていた。
21時00-15分 1,973人増 132人／分
21時15-30分 4,166人増 278人／分
しかし正直、私は絶望していた。
私はこれまでの集計状況から残り時間を考慮して着地点予想をしていた。
どうあがいても足らない。
あと8,000人、しかし時間は20分。
ここまでの最高分速278人。
ラスト20分に必要な分速は426人。
『さくさく』メンバーは鴨志田さんとZOOMで二人きり。
私は1分毎にチャットで増加人数を送り始めていた。
ここからは1分単位で数字を見て欲しい。
話題は「挑戦とは」だ。
21時31-32分 565人／分
21時32-33分 1,445人／分
21時33-34分 1,337人／分
21時34-35分 847人／分
21時35-36分 1,156人／分
21時36-37分 954人／分
21時37-38分 719人／分
21時38-39分 755人／分
21時39-40分 819人／分
この数字を見て私の興奮が伝わるだろうか？
限界を超えた絶叫が、これほどまでに人を巻き込んでいくものなのか？
結果を出すとは？
勝利を掴むとは？
成し遂げるとはどういうことなのか？
全てが理解できた実感がある。
手を抜かず真っ向勝負するということなのかが、理解できた実感がある。
それはあっちゃんを見たからだ。
あっちゃんの挑戦をこの目で見たからだ。
私は社会に出てから数字を扱う仕事に30数年従事してきた。
その中で感じてきたことが一つだけある。
確かに数字は大事だ。
しかし、それで表現できることには限界がある。
それは過去の延長の中でしか未来を見れないということだ。
私は21時30分まで達成できない未来しか予測できなかった。
自分の武器を探すのに過去を振り返るのは必要だ。
しかし、自分の未来に挑戦するとき、過去の実績は関係ない。
必要なのは達成したいという魂、ただそれだけなのだ。