嘘を許せなくなった僕ら

執筆者 | 21/04/01 (木) | コラム

嘘は嘘であると見抜けない人には(インターネットを使うのは)難しい

 

かつての2ちゃんねるの管理人、ひろゆき氏の名言だ。

しかし、彼は今、YouTubeの切り抜かれおじさんと化しており、この言葉を知らない人がひろゆき氏をもてはやす時代だ。

だが、20年以上前の彼の言葉の通り、今のインターネットには沢山の嘘が溢れ、それと同時に、嘘を許せない人達もどんどん増えてきた。

 

デマを拡散するな。ファクトチェックを欠かすなという一方、セルフブランディングで過剰に彩られた日常と経歴、人を惹きつける過激な釣りタイトル。

 

呟きはいいね狙いの嘘にまみれ、嘘を許せない僕たちは炎上という矢を放つ。

 

いったいいつからインターネットは、こんなにも不自由でつまらない場所になったんだろう。

 

僕は、4月1日が1年で一番好きだった。過去の話だ。

 


※本記事はジョーク記事です。この先は応援会員限定となりますが、特に深い学びはなく、突然のギャグ路線に転換します。ただ、オチは気合を入れて書いています。ラスト5分に、あなたは必ず騙されます。読みたい方は会員登録をお願いします。


 

4月1日と言えば、何を思い出すだろう。

入学、入社、新生活。いや、4月1日とまで言えばひとつしかない。エイプリルフールだ。

 

エイプリルフールは、1年に一度だけ、嘘をついて良いとされる日。

 

1日だけ許されていると聞くと嬉しくなる半面、逆にその他の364日は嘘をつくことが許されていないと言われているようで、現代社会の窮屈さを象徴しているようにも見えるが、抑圧された反動と言うのは大きいもので、エイプリルフールには誰もが何かしらの嘘をつかずにはいられない。

 

15年くらい前、2ちゃんねるが全盛期のころ。各企業はエイプリルフールにウェブサイトで大きなプロモーションをかけて、全力で遊びを楽しんでいた。特にウルトラマンの円谷プロは遊び心が強く、公式サイトが完全に2ちゃんねる風になって怪獣たちやウルトラヒーローの掲示板でのやり取りを楽しめたりして、それに負けじとネット全体が1日で終わるのがもったいないほどのユーモアに溢れていて、とにかくエイプリルフールは年に1回のネットのお祭りだった。

 

そして、もはや知らない人がいても不思議ではないが、かつて日本でFaceBookと双極を成したSNSに、「mixi」というサービスあった。

いや、正確に言えば今もあるのだが、とはいえ、今はモンストというアプリゲームの方が有名になってしまっただろう。

 

しかし、僕の青春時代にはmixiが欠かせないものになっていて、そこでは友達とのコミュニティがあって、芸能人のファンの集いがあって、もちろんそこにはゲームもあった。

 

今思えば、mixiのゲームはネットで友達と競うことを目的としたソシャゲーの走りだった。

 

もうゲームの名前は忘れてしまったが、その時僕がハマっていたのが、畑に野菜を植えて、土が乾いたら水をあげて、たまに肥料を足したりして野菜の収穫量を増やすという農園ゲームだ。

 

増えた野菜を売るとコインに出来て、新しい種類の野菜が買えるようになったり肥料がもらえたりして、それを基に新たな野菜を収穫してコインを手にして、新しい野菜を買って…。そもそもその野菜もコインも全部ゲームの中の話なので、いったいなんのために働いているのか何度思い返しても意味が分からないゲームだが、とにかく当時の僕はそれに夢中だった。

 

ニンジンは2時間で土が乾くから、2時間勉強したら水をあげようとか、今寝て起きたら7時間後だから、7時間で成長する白菜にしようとか。自然と生活のリズムに合わせて畑の手入れをするようになって、「自分を律するのに役に立つ、なんて良いゲームなんだ」なんて言いながら、気が付いたらむしろ畑に合わせて生活するようになっていった。

 

そんなある日、僕の畑が炎上していた。

 

ログインすると、突然現れた「あなたの畑が火事になりました」の文字。

 

パニックになった。そんな機能これまで見たことがなかった。

 

不幸にも、その時僕はイベントでしか手に入らない、期間限定の野菜を育てていたのだ。

大切な野菜だから、学校がない日に一日かけて手入れをしよう。土が乾いた瞬間に水を遣れば、収穫できる野菜が10個以上増える。この機会は絶対に逃してなるものか。そう思って、水遣りが出来るタイマーのカウントダウンを、今か今かと眺めて、完璧なタイミングで水をあげてから寝たはずだった。

 

それなのに、朝起きて収穫しようと思ったら、畑が燃えているのだ。

 

その表記を見た瞬間、心臓がぎゅっと掴まれたような感覚になり、正しいリズムを忘れたような不自然な鼓動が体を支配し、気が付くと指先が震えていた。

 

あんなに頑張ったのに。悔しくて、悲しくて、情けなくて。涙と嗚咽が込み上げてきた。

 

燃えた畑はどうなるんだろう。恐る恐るメッセージを次に送った。

 

画面がホワイトアウトする。

 

そしてホワイトアウトから復帰すると、なんと、畑は燃える前の状態に戻っているではないか。

 

何が起こったんだ?そう思う僕に、一つのメッセージが浮かび上がる。

 

「びっくりさせてごめんね!エイプリルフールだよ!」

 

ふざけんな!!!!!!!!!!!!!1

 

僕はキレた。

 

本来であれば安堵と笑いが起こる場面なのかもしれないが、僕はと言えばただただ怒り狂っていた。怒り狂いすぎて気が付いたら2ちゃんねるに悪口を書き込む寸前だった。

 

しかし、同時に不安も湧いてきた。これは、エイプリルフールであることをすっかり忘れていた自分に非があるのではないだろうか?実際には何の被害もない小さな嘘を許せない、自分の心が狭いのではないだろうか?

 

書き込みの手を止めて、まずはmixiのコミュニティを見よう。匿名で罵りあっても何も生まれない。いつも平和な、農園の仲間たちに会いに行こう。

 

そう思って畑のゲームのコミュニティを覗きに行った。

 

完全に炎上していた。

 

僕は自分のことを怒り狂っていると思っていたけど、僕なんか比較にならないほどの怒号が飛び交っていた。ベジータが怒り狂って戦闘力3万まで上昇させたのに、親玉のフリーザは戦闘力53万だったときくらい差があった。

 

「人を傷つける演出はやめろ」「1ミリも面白くない」「ユーザーのことを何も考えないクソ運営」

 

そんな罵詈雑言が飛び交い、大炎上していた。完全に運営のことは1ミリも考えずに全力でダメージを与えに行っているクソ書き込みだった。

 

「人が苦労して育てた野菜を何だと思ってるんだ」「畑が燃えたショックでゲームを消した。あとからエイプリルフールと知った。賠償しろ」「せめて焼き畑農業を実装しろ」

 

傍から聞いたら意味が分からない、脅しなのかギャグなのか分からない書き込みも溢れていて、とにかく阿鼻叫喚の嵐だった。

 

そしてほどなくして、運営から正式に謝罪文が発表された。

 

あの頃は「詫び石」のような文化もなかったため、謝罪のみでは炎上は収まらず、僕はと言えば、異常なまでに過熱したユーザーの姿を見て逆に冷静になってしまい、「なんでこんなゲームに一生懸命だったんだろう」と、そっとブラウザを閉じた。

 

エイプリルフール。1年に1度だけ嘘をついていい日。

 

いつしか僕らは、嘘を許せなくなっていった。

 

それは、SNSの発展の中、インターネットに「時間やお金を費やす」という消費行動が生まれたからかもしれない。多大な時間をかけているSNSで騙されることは、実際の金銭を失っている以上に大きな衝撃がある。

 

もしくは、現実は365日が嘘だらけの世界で、逆にインターネットは唯一信じられるものだったのかもしれない。掲示板に飛び交う罵詈雑言すら、人間の本質を突いているような、人のリアル。

しかし、インターネットという虚構の中で輝く確かなリアルは、SNSという現実と融合したサービスにより、見栄と虚像だらけの、嘘だらけの世界になってしまった。そんな潮流への小さな怒りが、爆発したのかもしれない。

 

そして、大震災の混乱を皮切りに、各企業のエイプリルフール企画は終焉を迎えた。

僕が楽しみにしていた円谷プロのエイプリルフール企画も、むしろ先陣を切る形で企画が終わってしまった。

 

表向きは自粛という表現が使われたが、実際には炎上を予防したに過ぎない。

そう、エイプリルフールという、僕が大好きだった4月1日は、何もない一日に変わってしまったんだ。

 

それ以降、僕はエイプリルフールを忘れてしまった。

 

思い出したら少しセンチな気持ちになって、それと同時に、「もしかしたらエイプリルフールが復活してるかも」そんな淡い期待を抱いて、久しぶりに円谷プロのホームページを見に行った。

 

そこには、「ウルトラサブスク開始!」「まさかの新シリーズ爆誕!セブンガーファイト」「ご賞味ください!新規撮り下ろし写真集発売!」など、意味が分からない文言が並んでいた。

 

円谷プロが帰ってきた!!!!

今年はネットフリックスのパロディなんだ!ユーモアセンスも健在だ!

 

そう思って詳細ページを見に行くと、まさかの全部本当の企画だった。

ウルトラサブスクは動画配信サービスで、セブンガーファイトも短編特撮、写真集に至ってはずっと昔から撮りだめてきた雑誌で昨日発売の本当の商品だった。じゃあご賞味くださいって何なんだよ。

 

そして僕は気づいた。

 

嘘は嘘であると見抜けない人には(インターネットを使うのは)難しい。

 

僕はいつの間にか嘘どころか、本当のことを見抜く力も衰えてしまったようだ。

というか、絶対嘘だろってサービスが何でも現実にある世界で、嘘を嘘と伝える方が難しいんじゃないだろうか。だって、あのPerfect Human中田敦彦ですら、アバターになってしまうんだから。

 

ひろゆき先生、僕はまだまだこれからのようです。20年前の彼の名言が、形を変えて僕に語り掛けてくる、優しくも儚い4月1日となりました。

 

ハッピーエイプリルフール。

 

※オチに気合を入れたとか、ラスト5分で騙されるとかは全部嘘です。エイプリルフールなのでどうか許してください。

執筆者 | 21/04/01 (木) | コラム


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