井上雄彦先生と私

執筆者 | 21/04/29 (木) | コラム

私が中学生だった1989年、週刊少年ジャンプで「カメレオンジェイル」の連載が始まった時、私は、雄彦先生の漫画の魅力に心を奪われました。当時雄彦先生は、まだ本名の成合雄彦というお名前を名乗られていました。
第1話を読んですぐ、私は漫画家さんへの初めてのファンレターを書きました。その後、毎週のように、ファンレターを書き続けました。
当時私は、自分でも漫画を描くのが好きだったので、真っ白なB5サイズの紙に挿絵を描き入れてから、手紙を書いていました。
その頃私は既に英国人のロック歌手のデヴィッド・ボウイさんのファンでもあったので、ボウイさんの絵も描いたこともありました。それがボウイさんの絵だとは書きませんでしたが。赤い髪のジギースターダストの絵も描いたことがありました。
ファンレターの返事が欲しいと思って、切手を貼った葉書を同封したことがありました。
すると、信じがたいことに、翌年の元旦に、雄彦先生直筆の年賀状が届きました!
楽しい連載は、コミック2巻分で終了してしまい、数ヶ月間寂しい想いをしていました。
そんなある日、雄彦先生の絵であると思われる、超インパクトがある赤い髪の人物が描かれた表紙の週刊少年ジャンプが家に届き、私は驚嘆しました。
雄彦先生は、「楓パープル」という手塚賞を受賞した作品で、既に流川楓というスーパーヒーローのキャラクターを創り上げていました。流川楓は当初、雄彦先生の漫画の主人公でした。
でも、「スラムダンク」で初めて、桜木花道という新しい主人公が、新たに雄彦先生の漫画に登場したのです。雄彦先生は、井上雄彦という新しいペンネームを名乗り始めました。
私の描いた漫画が、雄彦先生のキャラクター作りに影響したかどうかは定かではありませんが、桜木花道という強烈な個性を持ったキャラクターは、日本の漫画界で不動の地位を築き上げることになりました。
「スラムダンク」の連載中も、私は挿絵入りのファンレターを書き続けました。
東京の大学に通っていた時、「スラムダンク」がアニメ化され、試写会が銀座で催されるとのことで、応募すると、幸運にも当選し、雄彦先生の姿を生で見ることができました。
試写会では、流川楓が登場するたびに、女性の観客が「キャー」と黄色い声を出して熱狂していたので、まるでジャニーズのライブにでも来ているような気分だったのを覚えています。
また、「スラムダンク」のある映画版で、マイケルという金髪の外国人と、エリという名前のマネージャーが登場した時には、とてもドキドキしました。
大学在学中に、私は杖道という日本の古流武術のサークルに入り、そのことをファンレターに書きました。
夢想権之助という、宮本武蔵を破ったという伝説がある人物が開祖である、神道夢想流杖術という流派であることを書いたのです。
そして私が大学卒業後、雄彦先生は、「バガボンド」という宮本武蔵が主人公の漫画の連載を始めました。
私は再度驚嘆しました。
そして、連載の最初の方に、夢想権之助が非常に間抜けなキャラクターとして描かれ、宮本武蔵にあっさり敗れるというエピソードが挿入されており、非常に悔しい思いをしたのを覚えています(笑)。
雄彦先生が宮本武蔵を主人公とした漫画を描き始めたきっかけに、私のファンレターが影響したかどうかは定かではありませんが、雄彦先生は、「『スラムダンク』では人間の陽の部分を描きたかったけれども、『バガボンド』では人間の陰の部分を描きたかった」と、あるテレビ番組のインタビューでおっしゃっていました。
大学卒業後は、私はファンレターを書くのをピタッと止めました。でも、雄彦先生の作品は、ずっと読み続けています。
月日は流れ、雄彦先生は世界的にも有数の超有名な漫画家になり、私の手には届かない存在になりました。
でも、少なくとも、雄彦先生は私のことを、記憶の片隅に残してくれているのではないかと淡い希望を抱きつつ、昨年、雄彦先生の公式サイト経由で超久しぶりにメッセージを送ってみました。今ではTwitterでの雄彦先生の投稿に返信したりもしています。
今でも、漫画家というお仕事に憧れていた10代の自分を、時々感慨深く思い出します。
PROGRESSに入会してから、あっちゃんが事あるごとにスラムダンクのお話をしてくださるのがとても嬉しいので、思い切ってこの記事を書くことにしました。ブロガー歴が結構長い私も、今までに殆どこのことについての文章を一般に公開したことはありません。私ごときが雄彦先生の作品との関係を語ったところで、誰にも興味を持ってはもらえないだろうという恐怖心があったからです。
でも、あっちゃんやPROGRESSの皆さんになら、私の雄彦先生との思い出をシェアしたいと思い、綴ってみました。
これから「スラムダンク」の新しい映画が制作されるとのことで、親子でとても楽しみにしています。
バガボンドの続きが是非読みたいのですが、私は雄彦先生に催促のお手紙を書くべきでしょうか(笑)。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

執筆者 | 21/04/29 (木) | コラム


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