下記内容について、センシティブな内容が含まれます。メンタルに自信のない方は、ご退出されることをお勧めいたします。また、筆者には、いかなる宗教・宗派についても礼賛あるいは中傷の意図のないことを付言しておきます。
こんにちは!以前「沈黙」(遠藤周作著)について書いたところ、大変ありがたい反応をいただきました。また、「隣人愛」と記したことについて、意味がわからない、との反応もいただきましたので、今回は遠藤周作と同じくクリスチャンで文筆家の永井隆について書きたいと思います。
ロザリオの鎖
「ロザリオの鎖」を読んだことのある方はいらっしゃるでしょうか。これはクリスチャンにして随筆家、そして医師である永井隆博士の代表作です。
文学の流れの中にその功名が燦然と輝くタイプではないので、馴染みのない方も多いかもしれません。では、なぜ彼が随筆家として名を残したか。答えはその劇的な生涯にあります。
永井博士は、長崎医科大学(現・長崎大学医学部)の卒業式で総代として答辞を読むことになっていましたが、卒業式の5日前に急性中耳炎にかかり、右耳の聴力を失いました。そのため、当初希望していた内科ではなく放射線医学を専攻することになります。その後、第二次世界大戦中、結核のX線検診に従事するも、レントゲンのフィルムが不足していたために透視による診断を継続。1945年、被爆による白血病で余命3ヶ月と診断されました。
放射線の専門家である永井博士ですから、被爆した自身の症状については誰よりもよく理解していたことと思います。妻で、やはり敬虔なクリスチャンの(旧姓:森山)緑に、自分の死後は子どもたちのことを頼む、と伝えます。
ところが、1945年8月9日長崎に原子爆弾が投下され、爆心地から700メートルの距離の長崎大学にいた永井博士は再び被爆します。右側頭動脈切断の重傷を負いながらも、布切れを巻き付けただけで救護活動にあたりましたが、3日後ようやく帰宅した博士は台所で焼けただれたロザリオの鎖と骨片を見つけます。博士は妻をバケツに拾いました。
自身の死後、子どものことを頼んだはずの妻は、原爆で命を落としたのです。
この子を残して
博士には、誠一(まこと)と茅乃(かやの)という幼い子どもがいました。疎開していたために被爆は免れたふたりでしたが、やがて戦災孤児となる運命にあります。この子たちへの愛情が博士の研究と創作への情熱に繋がったのでしょう。病床にありながらも原爆症の研究と執筆活動を行います。
カトリック信者の仲間や人々の厚意によって、建てられた二条一間の住まいは如己堂(にょこどう)と名付けられ、博士の寝台として一畳、残りの一畳で子どもたちが暮らします。茅乃は一人でままごとをし、どこからか拾ってきた徳利に布切れを巻きつけて、「ササノ、ササノ」(夭折した妹の名)と呼んで可愛がります。それでも、病状が進行するにつれ脾臓が膨れ上がり圧迫による内出血の恐れがあった博士は、ふたりの子を抱きしめることもかないません。
「私がやっぱり眠ったふりをしていると、カヤノは落ち着いて、ほほをくっつけている。ほほは段々あたたかくなった。何か人に知られたくない小さな宝物をこっそり楽しむように、カヤノは小声で、
『お父さん』
といった。それは私を呼んでいるのではなく、この子の小さな胸におしこめられていた思いがかすかに漏れたのであった。」
(永井 隆著「この子を残して」より)
いとし子よ
永井博士は、原爆症の研究と執筆以外にも後世に遺産を残しました。それは、『うちらの本箱』。戦災孤児や貧困により学校に行けない子のために施設図書館です。うちらの本箱には、博士の思想に共感した人々から寄付が寄せられ、遠くアメリカやブラジルからの寄付もあったそうです(下記、URLを参照致しました)。
1951年5月1日、博士は「祈ってください。」と叫んだのち帰天します。43歳でした。
如己愛人(にょこあいじん)。聖書に何度も出てくる隣人愛(アガペー)の教えに基づく、自分のように人を愛せ、という博士の思想は多くの人の共鳴を呼び今なお受け継がれています。
「敵も愛しなさい。愛し愛し愛しぬいて、こちらを憎むすきがないほど愛しなさい。愛すれば愛される。愛されたら、滅ぼされない。愛の世界に敵はない。敵がなければ戦争も起らないのだよ。」永井隆著「いとし子よ」より
この言葉で人生が変わりました。
最後に
ここまでお付き合いただいた方、誠にありがとうございました!
本当はもっともっと書きたいことがいっぱいなのですが、筆者は長崎出身の三世で、筆が滑る可能性がありますので自粛いたします。皆様にはぜひ永井博士の著作物を読んでいただきたいです。
『うちらの本箱』は、現在は永井記念館図書室として親しまれています。ではまた(*´꒳`*)
https://nagaitakashi.nagasakipeace.jp/japanese/overview.html
*参考文献*
永井隆全集(サンパウロ)