2021年2月入会の宮崎大介です。今日は私と最近暮らし始めた仔猫の話です。
私の自宅から駅に向かう途中に、いつも外猫が数匹たむろしている廃屋のようなアパートがありました。荒れた外観で、人が住んでいる様子もなく、1Fの部屋の前には沢山のゴミが溜まっています。歩道に面した窓は割れたまま無造作に段ボールが貼られ、時折世間を騒がせる、いわゆるゴミ屋敷のようになっていました。そのアパートの前で偶然、生後一ヶ月くらいの30cmくらいの大きさの仔猫が歩いているのを見かけたのです。
そのことを自宅に帰ってから妻に話すと、妻も同じ場所で何度か仔猫を見かけたということです。我が家には子供がいませんが、猫を4匹飼っています。6畳一間の和室に3つのケージがあり、ほぼ猫部屋となっています(もはやどうぶつの森のよう・・)そのうち若い2匹は保護猫で女の子の姉妹です。すっかり丸々と大きくなり元気に暮らす我が家の猫たちを見るたびに、なぜかあのアパート前にいた仔猫を思い出すようになりました。外猫ってどうやって暮らしているのだろう、雑草が生い茂った庭で、水はどうしているんだろう、ご飯はちゃんと食べているんだろうか。そもそも他の家族はどうしたのだろう、 考え出すとなかなか眠れなくなってしまいました。
次の日またアパート前に通りかかった時に、思い切って仔猫を探してみることにしました。住人に見つかったらやばいかなと思いつつ、アパートに面していている駐車場から覗き込んでみることに。そうするとアパートの階段前に身をかがめた仔猫をみつけました。私を見つけるとすぐに草むらに逃げ、もうどこにいるかわからず、その日もそれで帰りました。
色々ネットなどで調べてみると、外猫は冬になると生きていく条件がもっと厳しくなり、長生きできない確率が高いということ。この時は9月でしたがこれから本格的に寒い冬になります。親も兄弟もいない仔猫が安心して暮らせるような環境ではありません。私は思い切って妻に、あの仔猫を保護してみる提案をしました。まだ仔猫のうちに人に慣れれば、先住猫ともうまくやっていけるようになるのではないかと。 すると妻も同じことを考えていたようで、すぐに賛同はしてくれましたが、4匹いる我が家ではもうスペース的にも限界。ただ急がないといけない理由がもう一つあり、それは9月だったので時期的に日本に大きな台風が近づいてきていたのです。廃屋と草むらの生い茂る庭ではとても雨風がしのげるようなところがあるとは思えません。駐車場の車の下もとても危険です。私の家ならきちんと断捨離をすれば自分の部屋にもう一台くらいケージを置けるはず。普段はなかなか優柔不断な自分ですが、珍しく迅速に保護しようと決断、妻と捕獲に出かけました。
黒ずくめの格好で身をかがめて脇の駐車場から中に入ります。でも実際はうまくいかないもので、仔猫とはいえこれまで人間や他の外猫、時にはカラスなどから身を守り逃げてきたのですから、そう簡単に捕まるはずがありません。私たちの足音を聞くとすぐに身をかがめ、駐車場脇の草むらに逃げ込みます。9月を過ぎると陽が落ちるのも早いので、18時ですぐに真っ暗。 あっという間に見失いました。次の日も朝早く行ってみましたがやはり同じ結果。実際に敷地に入って周囲を見回すと、実に生き物が住みづらい場所に感じます。アパートのすぐ前には車が常に何台も往来する大きな道路があり、駅にも近いので自転車などの往来も激しく、何年も草を刈っていない駐車場とゴミの溜まったアパートだけを自分のすみかにして、この仔猫は生きてきたのです。仔猫の小さな瞳に私はどんな風に映っていたのでしょう(きっと獰猛で身勝手な生き物がまた近づいてきたとしか思っていなかったことでしょう)自分以外に信じるものがないこの仔猫を可哀想に思えてきました。
ここで思い切って作戦を変えることに。もはや我々素人では捕獲するのは無理だろうという判断で、近所のボランティアで外猫の捕獲や譲渡会をやっている団体があることを知り、早速連絡をとることに。事情をわかってくれたボランティア団体の方が、明日朝に捕獲器を持って一緒に来てくれるという。思ってもいない支援に心強い気持ちになりました。現実的に台風が近づいてきていて、いよいよ明後日には関東に上陸するという。明日確実に保護しなくてはなりません。強い覚悟を持って次の日は望むことにしました。
次の朝、現場に着くと、ボランティアの女性スタッフの方も車で来てくれていました。さっそく猫の餌をセットした捕獲器をアパートの玄関に置き、駐車場に隠れます。するとおよそ10分くらい経った頃でしょうか。
カシャン!
みにゃあ〜〜〜!!
おお!あんなに苦労したのに、あっという間に、仔猫を捕獲することができました。
仔猫はケージの中で怯えているように小さく身を縮こめています。怖がらなくてもいいよ〜!と声をかけつつ、そのままかかりつけの動物病院へ。いつもウチの飼い猫を診てくれている先生に診てもらい、ワクチン注射とノミ駆除の薬を投与してもらいました。体重660gで生後一ヶ月半くらい。幸い病気もなく、健康状態も良好だということで安心しました。保護した外猫は感染症の疑いもあるので、検査が済むまでは接触しないようにしなくてはなりません。そのため保護した仔猫はしばらく廊下にケージを置いた後、(検査やワクチン接種を終えた段階で)私と同じ部屋で過ごすことになりました。
家に連れて帰ってから驚いたことは、自由にさせるとすぐ隅っこに隠れて、そこから一切の気配を消してしまうことです。おもちゃを見せても、ご飯となるカリカリやCiaoちゅーるを見せても一切見向きもしません。これまでウチに来た猫はそんなことはなく、遊びまわったり跳ね回ったり、ご飯を見ては家の中を駆けずり回っているのが仔猫だと思っていたので、そんな仔猫は初めてです。きっとそうやって多くの外敵から身を守って来たのでしょう。「探さないでください・・・」そう言って無言の抵抗をしているかのようでした。「隅っこに隠れて暮らすなんて寂しいじゃないか。一緒に楽しく暮らそう!」そう語りかけました。
仔猫には「チロル」と名付けました。チロルチョコのような茶色で、ちろちろチョロチョロしているというのもありますが、どこか天使ような響きがあり、恵まれない場所に生まれた仔猫ですが、天使のような笑顔で、世界中に幸せを運ぶ存在になって欲しいと思い名付けました。事実、私にとっては天使のような存在です。
今では私が(仕事が休みの土日に)HRにZOOMで参加した時、あっちゃんから最後のお見送りの際、チロルとともに「大好きだよ〜〜」と声をかけてもらうのが毎週のルーティンです。ウチに来て幸せなのか、それはまだまだわかりませんが、一つだけ言えるのは私がこれから愛情と優しさを注いで「生きてて楽しい〜〜〜!」と思えるような毎日を、このチロルに贈りたいと思います。
「やさしさに包まれたなら、目に映るすべてのものはメッセージ」
全ての動物が幸せになりますように、そう願わずにはいられません。