中田敦彦は、『損切が早い』と言われる。
このことで、よく話題に上るのが2020年4月に起きた『顔出し引退、前言撤回』だと思う。
この一連の騒動は、同年2月19日に『アバター計画』が発案され、4月4日の『撤回宣言』まで、約1カ月半に渡り、PROGRESSのみならずTVワイドショーをも含めて世間を席巻した。
『アバター計画』は、シンガポールへの出国準備中に出されたアイディアだった。この時期あっちゃんは、『引退』をキーワードにした思考が多かったと思う。
有名になることのデメリット、資産形成、FIRE、健康管理という話題がHRでも上るようになった。アグレッシブな人たちから見れば、「イケイケどんどん」の風潮ではないので、物足りないのかもしれない。また、『引退』という言葉の響きで、寂しさを感じた人もいたのかもしれない。両方の気持ちに響くものを感じるが、僕は正直ワクワクしていた。
『引退』、一線を退く、という印象が強いかもしれない。
でも『隠居』とは違う、と僕は思う。一線を退いて、表舞台に出てこないのが隠居じゃないだろうか。
引退は、「人生の第一幕に終わりを告げ、第二幕の準備をすること」だと思っている。
移住も資産形成も健康管理も、次のステージに必要な環境・素材を集めるための問題意識の表れではないか?
中田敦彦の第二の人生の羽化の瞬間が見てみたい、そして、それを自分の人生にも活かしていきたい、そう思った。
この『アバター計画』は、翌日2月20日に『N Project』という名称で本格始動した。アバターのデザインを決めるサロン内コンペだ。締め切りは2週間後の3月7日。
当然僕も応募した。前回の歌詞コンペに続き2回目。
初めて使うイラストレーターを駆使して何とか作り上げた。
元々、子供のころゲームの設定などをイラスト付きで作ることが好きだったので、歌詞に比べればアイディアはスラスラ出てきた。絵も30年ぶりくらいに描いたので、最初戸惑ったが最後まで描き切れた。
毎回、コンペで感じることだが、自分の頭の中のイメージを外に吐き出して形にするのは爽快感があって楽しい。最近書写や絵を始めたのも、こういうきっかけが積み重なってきたからだと思う。
結果、米倉八潮さんの紳士をモチーフにしたシンプルでクールなデザインが選ばれた。
僕も紳士をモチーフにしていたものの、「太陽の塔」と「おしり探偵」を混ぜたような、「モッチリ感のある得体のしれない人物」を描いた。
会心の出来だとは思ったが、歌詞の時と同様、いや前回以上に「これは選ばれない」、という確信があった。なぜなら、出来た作品が『自分そのもの』だったからだ。募集テーマに合わせる、ニーズに合わせるということに対して、まだまだ経験不足だと思う。
そしていつも思うことだが、八潮さん始め、PROGRESS歴の長い人は、中田敦彦、PROGRESSの理解、思いが洗練されていると、作品を見て感じる。
そしてこの後、4月4日の宣言撤回までの1カ月弱、色々なあっちゃんの内面がHRで語られた。顔を隠す意味についても、プライベートの確保だけでなく、コアのファンを掴むためのブランディング、中田依存のクリエイティブ体制からの脱却など多面的な検討がなされていた。反面、萌さんの感想を聞いて、これで本当にいいのか?と自問したり、トークチャンネルで事前告知しユーザーの反応を見たり、新たな挑戦に不安を感じる側面も見ることができた。
新しいことをするのに不安を感じるのは当然だ。それは、自分の思い描くイメージが合っている保証なんてどこにもないからだ。しかし、そこをあっちゃんは、『いける理由』を探し出して一歩前に進む。そして、一歩進んで新しいことが見つかったら、またそこで考え舵取りをしていく。
ただ突き進むだけなら、できる奴はいっぱいいる。しかし、ちゃんとゴールまでたどり着けるのは、慎重さと大胆さを駆使して、進む道のりを築いている者だけだと思う。
2020年4月3日、いよいよアバターを使った初のYoutube大学『デスノート』の回が始まった。そしてこの翌日、周囲騒然となる『顔出し引退、前言撤回』が発表される。
詳しい経緯は当時の各種動画があるので、そちらを参照されたい。
この世紀の大失敗について、賛否が沸き起こるのかと思いきや、概ね「英断」との評価がくだったものと個人的に理解している。
それを評する言葉の中に、「中田敦彦は損切が早い」というものがあった。
なぜ切れるのか?本気で成功すると思っていたのに。
頭がいいから?頭が良くても投資で失敗している人をいっぱい見てきたぞ?
僕が考える普通の反応、それは「しばらく様子見」だろう。
なぜ初回で決断できるのか?
僕なりの解釈はこうだ。
① 自分の直感を信じ判断する。
② ダメだと思った理由をすぐに言語化できる。
③ 完全撤退、保留など、決定方法にバリエーションがあるので決めることに対して迷いがない。
株ですら「何%下がったら売り」とか、自動化させないと損切なんてみんなできない。
目の前で起きている現状を、なんて表現していいのかわからないから漠然と様子を見ておく。
撤回を決めようと思っても、白紙に戻す勇気が出ないから即断できない。
だから、悪影響が目に見えるようになるまで「様子見」。
いやー、中田敦彦、この男の切れ味を、まだまだ味わっていきたい。