「場処」のタイトルとかロゴのはなし

執筆者 | 22/03/12 (土) | コラム

東日本大震災から11年目の昨日、防災意識を高めることを目的とした「防災意識を高め隊」企画のMVが公開され、その楽曲を担当させていただきました。

https://www.facebook.com/ayumi.tada.5/videos/378434750459609

Youtube

もともとこの楽曲は今回のプロジェクトマネージャーである中川あゆみさんに昨年ボーカルをお願いして作った「場所」という楽曲を、矢野康弘さんと福田萌さんのツインボーカル用に作り直したものでした。

https://www.facebook.com/tomonari.saito.9/videos/3719574788159501

この曲をリバイバルする素敵すぎる企画を立ち上げてくださった中川あゆみさんには本当に感謝で一杯で、矢野っちさんと萌さんのボーカルもしよりんの手話もがんちゃんの動画もジュンさんのMIXもミュージカル部のみなさんのコーラスも、表には出ないところで大変なサポートをしてくれたみっちゃんも、それぞれが最高のかたちで混ざりあった本当に感慨深い作品になりました。

このような企画に携われたことを本当に嬉しく思います。

そんな気持ちもあり、何かしらこの楽曲製作者としてのコラムを書きたい!と思ったのですが、自分の故郷が被災したはなしは昨年お話した気がするし、歌詞の内容については昨年TV配信で中川あゆみさんとサガンチアキさんが色々と語ってくださった(https://www.facebook.com/ayumi.tada.5/videos/3813118635438224)ので、自分は楽曲のタイトルについてとか、タイトルロゴのデザインについてとか、「自分から語らないと一生語る機会がない」内容に関して世間の需要ガン無視でこのコラムの場をお借りして書き綴ろうかと思います。

毎度のことながら、書き始めたらアホみたいな長文になってしまったので、本当に暇な方に読んでいただけたら幸いです、。

場所(場処)というタイトルに意味はない

自分は歌詞をつくる場合、楽曲のタイトルを先に考えることが多いです。

そのタイトルを考えるときに「歌詞で伝えたい内容からつける」場合と「歌詞に関係なくただつけたい言葉をのせる」場合があります。

もしかしたら後者のタイトルの付け方ってあまり想像つかない方も多いかもしれませんが、自分の場合多分7割くらいが後者で、「歌詞のこと全然考えてないけどとにかくこのタイトルにする!」っていう感じでまずタイトルにしたい言葉を曲に無理やりくっつけて作ったりします。

この「場所」(矢野っちさん萌さんバージョンは区別するために”場処”という表記にしました)もまさしくこのタイプのタイトルの付け方をしました。

この曲のタイトルを付ける際に考えたのが、「楽曲タイトルとしてこの世で最も無味無臭な言葉にしたい」という思いでした。

この時点で歌詞は一文字も決まっていなかったのですが、自分の震災の記憶や体験を入れ込んだ歌詞になることは何となく想像していたため、それだけでかなり濃い味な歌詞になってしまうなぁという予測がありました。

そのため、楽曲を聞く人が最初に目にする情報であるタイトルにはあえて何の意図も感じさせない、何の感情の動きも起こさせないような言葉を入れ込みたいと考えました。

無味無臭な言葉探しの難しさ

では楽曲タイトルにしたときに何の感情も起こさない無味無臭な言葉ってどのようなものがあるでしょうか。

何となく真っ先に浮かびそうなのが「無題」や「no title」のような「タイトルをつけない」というタイトル。

しかし、「無題」という「タイトルのないタイトル」は絵画などを中心とした芸術作品には非常によく使われるもので、それ自体がやはり何かしらの意図や意味を想起させてしまう恐れがあります。

あと何よりミスチルが「名もなき詩」という「タイトルをつけないタイトル」の名曲を何年も前に作ってしまっています。「無題」というタイトルには「言葉では言い表せない感情表現」という「明確な意図」がどうしても透けて見えてしまいます。

そこで色んな「無味無臭な言葉」を必死で探しました。自分のノートに残っていたタイトル案には

こんにちは、ありがとう、空気、味噌、線、丸、・・・と言った言葉が残っていました。

「こんにちは」とか「ありがとう」や「空気」はやはり楽曲タイトルとしたときに若干意味めいたものを感じさせてしまう気がしました。

ちなみに「ありがとう」はSMAPやB’zのヒット曲にもあるため速攻却下。若干マイナーですが、愛内里菜は「空気」という曲をすでに出していました。

味噌はふざけすぎてて逆にタイトルとしたときにインパクトが出てしまって感情を動かされる感覚があります。

いくら感情に作用しないような言葉といえど、楽曲タイトルのイメージとしてあまりにかけ離れた言葉だとかえって様々な意図を勘ぐってしまう危険性をはらんでいることに気づきました。

線や丸は結構いいところにいった気がしたのですが、それでも明確なかたちを想像できてしまう分ちょっとタイトルとしての意図を考えさせられてしまう気がしました。

ただ、線や丸といった言葉のように「明確なかたち」が想像できないような、概念的で抽象的な言葉に自分の求めている言葉があるような気がしました。

最高のタイトルの曲を見つけた

そんなこんなでタイトル作りは完全に暗礁に乗り上げてしまいました。

そもそもなんでこんなにタイトルについて悩んでいるのかも、その頃にはもはや分からなくなっていました。

自分のアタマで考えることに限界を感じて、自分が過去に聞いてきた曲で参考になりそうな曲を探してみることにしました。

「参考になりそうな曲を探そう」と頭を切り替えてみると、わりとすぐにこの曲が頭に浮かびました。

KICK THE CAN CREW 「住所 feat. 岡村靖幸」

“住所”

当時このタイトルを見たときに全身に電撃のような衝撃が走ったことが脳裏にしっかりと焼き付いていました。

「住所」

自分が恐らく1万回ひっくり返っても出てこないであろうタイトル。

すごい、すごすぎる。

これは勝手で非常に失礼な憶測ですが、歌詞の内容が若干こじつけっぽくも聞こえて、この曲もタイトルから発想して無理やり展開したのでは、と勘ぐってしまいます。タイトルをつけた人のドヤ顔が透けて見えてしまいます。

それにしてもそれくらい秀逸な、唯一無二で何よりとんでもなく無味無臭なタイトル。

タイトルからは楽曲の内容に一切想像が及ばないのに、無言の衝撃がじわじわと心の奥に侵食してくる感覚。。

まさしく自分が行き着きたいタイトルの正解がここにありました。

住所、、この言葉を超える日本語に出会えるのか。。

でも恐らく自分が求めるタイトルはこの「住所」という言葉の近辺にあるような気がしました。

何のかたちもなく、抽象的で、概念的で、無味無臭な言葉。。

そう考えてたどり着いたのがこの「場所」というタイトルでした。

振り返れば半分「住所」のパクリでもあるのですが、「場所」というタイトルに行き着いたときの興奮とそれまでの苦悩からの開放で心のなかでガッツポーズをしたのを覚えています。

歌詞はその後付けで、あまりタイトルはとらわれず自分の書きたいことを自由に書いたつもりだったのですが、それでもやはり最初にタイトルをつけたことで若干そこからの影響も受けたようなかたちに落ち着いた感じがありました。

楽曲のテーマを表現したロゴデザイン

今回場所から”場処”へ作品をリニューアルする際に、誰に頼まれるでもなくロゴデザインも勝手に作ってがんちゃんに動画の中に入れてもらいました。(迷惑)

このロゴデザインはタイトルとは全く逆で、楽曲に込めた意図をがっつり入れ込んで作りました。少しデザインの話をする前に今回の楽曲のことに関して書こうと思います。

昨年の”場所”では中川あゆみさんの女性ひとりのボーカルだったため楽曲の構成もシンプルだったのですが、今回の”場処”では矢野っちさんと萌さんのツインボーカルとなったので男性キーと女性キーを分ける二部構成の楽曲として作り直す必要が出てきました。

そこでせっかく二部構成にするのであれば、何かコンセプトめいたものを入れ込んでデザインしなおしたいと考えるようになりました。

この曲の歌詞は自分自身の中で震災への思いが記憶とともに風化していくことの恐怖を表現していました。※そのため今回の企画のように「震災のことを忘れず防災意識を高めましょう!」という呼びかけは何より自分自身に非常に響くものでした

過去にあった事実とは別のところに現在や未来の自分がいるような、10年前は故郷や友人を一気に失った恐怖と絶望で身動きができないほど打ちひしがれていたはずなのに、自分の中の日常はそれとは別の世界で動いているような、そんな寂しさというか自分という人間の非情さを感じていました。

そういった「過去」と「現在(未来)」を地続きとはせず、あえて分断させるような表現を楽曲の中に入れ込みたいと考えました。

前半の矢野さんパートを過去、萌さんパートを現在から未来、として楽曲の雰囲気を一気に変えるような構成にしました。

そんな楽曲の構成から作ったのがこのタイトルロゴでした。

左の「場」がきちんと成形された明朝体で明確に存在している現在を表現し、「処」はところどころ崩れたゴシック体で記憶の中で薄れつつある過去を表現しています。

背景に薄っすらと引いている線も右に向かって徐々に時間がさかのぼり、薄れていく記憶の糸のようなものをビジュアルで表現しました。

誰からも頼まれていなく作ったものだったので特にどこにもこのロゴデザインを誰が作ったということが表記されていないのですが、結構色々考えて作ってたんだよ、ということを誰かに言いたくてコラムの場所を借りて語ってしまいました。

ボカロバージョンも作りました

もはや全く関係ないただの宣伝なのですが、この楽曲のボカロバージョンを作りました。

自分は誰かに自分の曲を歌っていただく場合、ボカロに歌わせた曲をサンプルとしてお渡ししているので「作った」というよりは正確には「作っていた」が正しいのですが、HRでもボカロに関して盛り上がっているところもあり、よければ聞いてみてください。

使用しているのは巡音ルカとGUMIというボカロです。どちらも自分がDTMをはじめた2009年に発売してすぐに購入した思い入れのあるボカロで、何となく同じく自分の思い入れの強いこの曲に適任だなぁと思って使いました。

歌なしカラオケバージョンも作りましたので、MIXはジュンさんじゃなく自分仕様ですが、よければご自由にダウンロードしてください。
https://www.dropbox.com/s/18iqq6pcpzo6hiq/%E5%A0%B4%E5%87%A6_offvocal.mp3?dl=0

全然コラム書かないくせに一度書くと読むの嫌になるくらいの長文を投稿してしまうのですが、もしここまで読んでくださった方がいたら本当に嬉しいです、。

では、また。

執筆者 | 22/03/12 (土) | コラム


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