ストロベリー・ストーリー 赤くて甘くておいしい苺 第1話

執筆者 | 21/03/22 (月) | コラム

こんにちは
2020年7月入会、アリスカーナ所属の竹内睦(たけうち ちか)と申します。

この物語は2005年にメルマガで発表し、その後オンライン販売していたものです。(音声もつけて1500円でした)
時代背景が現在とは違うので、違和感を感じる部分もあるかもしれませんが、「何者かになろうとしている」誰かの心に響けばいいな、と思い、公開することにしました。
お楽しみいただけたら、幸いです。

【ストロベリー・ストーリー 赤くて甘くておいしい苺】

第1章

その夜も、彼はずっとパソコンの前に座って考えていた。
机の上の灰皿には、タバコの吸殻が山のようにたまっていた。

彼はインターネットビジネスで一儲けしたいと考えていた。
そのためには、ここ数年で登場した情報商材を販売する方法が
元手もいらず、手っ取り早いように思えた。

お気に入りに登録しているサイトには、たくさんの成功者たちが並んでいた。

パソコンのモニターの向こう側には、ゼロから起業して成功したという、
彼よりもずっと若い男たちが、楽しそうに笑っている世界があった。

たった一晩で100万円稼いだ。
年収ではなく月収が300万円を越えた。
信じられないような景気の良い話が、飛び込んでくる。

そういった話を聞くたびに、夢はふくらみ、
そして、焦った。

俺も早くこの波に乗って、早く金持ちになりたい!
先行者利益というじゃないか!

情報販売なんて、本を出版するのに比べればカンタンなもんだ。
出版社に売り込む必要もないし、さっさと書いて、電子書籍に変換して、
自分のセールスページに載せればいいんだよ。
そう、セールスページが作れなくったって、ブログだけで売ってる商材もたくさんあるわけだし。

さて、そうはいっても、何を書いたらいいんだ?
何でもいいってもんじゃないよな。
やっぱり、高く売れるのは金儲けの方法か?
でも、俺には金儲けのノウハウなんてないぞ。
だから、今こうやって考えているんじゃないか。

彼も何回か、情報商材というものを買ってみて読んだ。

そして、著者のすすめるとおり、メールマガジンを発行しようとしたり、
ブログのIDを申し込んだりしてみたが、
その先の一歩がどうしても前へ出なかった。

ブログに日記をつけるような、おもしろおかしい毎日ではない、と思っていた。

この宇宙のように広いインターネットの世界で、
彼がたった一言でも情報を発信することのできるメディアは、
まだ一つもなかった。

早く金持ちになりたい!がんばろう!という気持ちと、
きっと自分には無理だという気持ちが交互に自分の中に現われる。

いまはネガティブな気持ちにとらわれる時間が、一日の大半を占めるようになっていた。

それでも、あきらめたくはない。

いつもその中間地点で、何をどうすればいいのか?と考えていた。

その夜もそうやって、考えているときに、家の電話が鳴った。
去年、母が亡くなってからほとんど鳴ることのなかった電話。
続いて、ピーッという音。
ファックスだ。

珍しいな。誰からだろう?
見にいくと、ファックスが吐き出した紙から
こんな言葉が目に入った。

「あなたが探していたものです。見つけましたよ」

探していたもの?
俺はなにも探してなんかないぞ!
間違いファックスか?
それともDMか何かかな?

その後に続いて送られてきた内容は、
物語だった。

——————————————

『ストロベリー・ストーリー』

あなたは、いま、
旅をしている途中です。

強い陽射しの照りつける道を、
もうずいぶん長いこと、歩き続けています。

疲れてきましたね。

のども渇いてきましたね。

そんなあなたの歩く道の先に、
看板が立っているのが見えました。

【この先に屋台 赤くて甘くておいしい苺】

その屋台までがんばって歩こう、とあなたは思いました。

つやつやした赤い苺、
甘い香りがひろがって、
果汁がしたたりおちる柔らかい苺を、
口いっぱいにほおばっている様子を想像しながら・・・

やがて、小さな屋台にたどりつきました。

台の上には、3つの白い箱が並べてあって、
こう書かれた紙がありました。

【赤くて甘くておいしい苺!残りあと1つ!】

あなたは不思議に思って、
店番をしている女にたずねます。

あなた「あと1つって、3つあるじゃない?」

女 「赤くて甘くておいしい苺は1つだけよ。

あとの2つは普通の苺と、普通以下の苺なの」

あなたは3つの箱を見ます。

1つの箱はうっすらと汚れていて、
あとの2つは、変わりはないようです。

あなた「赤くて甘くておいしい苺が欲しいんだけど」

女 「選べばいいわ、ただし、箱にはさわらないでね」

あなたは、もう一度、3つの箱を見ました。

左端にあるのは、うっすらと汚れている箱。

これはやめておこう

普通以下の苺のようだ。

そして、残った2つの白い箱を見ました。

どちらかが普通の苺で、どちらかが赤くて甘くておいしい苺。

外から見ただけでは、わかりません。

あなたは2つの箱に、顔を近づけました。

目を閉じて、それぞれの匂いをかいでみました。

すると、真ん中の箱からは、
なんともいえない、甘い、良い香りがしてきます。

これだ!

これがおいしい苺にちがいない!

あなたは、そう、確信して
真ん中の箱を手に取り、女にお金を払いました。

長い旅の途中で疲れていたあなたは、
すぐに苺を食べようと思いました。

そして、暑い陽射しをさけて、屋台の裏手にまわり、
日陰に腰を下ろしました。

箱のふたを開けると出てきたのは
つやつやした赤い苺。

甘い果汁が、唇のはしからこぼれるほど、
したたりおちます。

あぁ、おいしい・・・・

本当においしい・・・・

よかった

なんて幸福なんだろう

夢中になって、5つ、6つと続けて口に入れてしまうと、
ようやく、苺以外のものを見る余裕が出てきました。

そして、ふと、
目の前にある屋台の後ろの壁、
その板の隙間が空いていて
中の様子が見えることに気づきます。

あなたは、この後、
思いもかけない場面を
見てしまうのです。

——————————————

おいおい、これで終わりか?
思いがけない光景って何だよ?
気になるじゃないか!

あ、いや、それどころじゃないんだった!
商材、商材。考えなきゃ。

いったい、どんなネタを書いたら売れるんだろう?
株の話?ダイエット、モテるノウハウ・・・

ああ、俺はどうしてこう、自分にできないことばっかり、
思いつくんだろうね。

それから1時間ほどして、彼がコーヒーを入れに立ち上がったとき
また電話が鳴った。

そして、同じようにファックスのピーッという音。

あ~さっきのだな。
まだ間違いに気づいていないのか。

今度届いたものは、さっきの物語の続きのようだった。

   つづく

※苺?の画像はPROGRESSメンバーのhttps://twitter.com/PROGRESSkoutaro池本幸大郎さんの暁いちご農園のものをお借りしました?

執筆者 | 21/03/22 (月) | コラム


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