人は何者にでもなれる日常

執筆者 | 21/03/23 (火) | コラム

「人は何者にでもなれる」という言葉に背中を押され、今日も何者かになろうと意気込みながら、変わらない日常を過ごしている。

気持ちだけが先行している、と言い換えてもいい。でも、僕は信じている。人は何者にでもなれる。成功者にも、人格者にも、アバターにだってなれるんだ。

日本語には「浮足立つ」という言葉があります。

つま先だけで立って、そわそわと落ち着かない様子を示す言葉。

何者かになろうと決めた自分は、決めた瞬間からまさに浮足立っている感じなのです。


本記事はここから先、応援会員限定記事となります。
続きを読みたい方は応援会員への会員登録をお願いします。
感想、シェア、ネタバレもOKです。ご自由にお楽しみください。


その浮足立ちっぷりと言えば語るのも恥ずかしいほどで、僕はと言えばYouTube大学に出会ってから突然本をたくさん読むようになり、健康に目覚めてスタンディングデスクになり、1日1食になり、ついでにエヴァンゲリオンの解説がめちゃくちゃ上手くなり、背景に掛け軸を掛けて、服が全部怪しいロゴの黒一色しかなくなっていって、部屋にどでかいリングライトを設置したりしていた。もう明るくなりたいのか暗くなりたいのかもよくわからない。間違いなくパニック状態だった。

そして、怪しさ全開のアイテムの中に、唯一のアイテムであるリングライトというのが、なぜか想像の3倍くらい大きい。めっちゃ立派な三脚で、6畳しかない自室の畳半分くらいを占拠している。ちょっと前に机をスタンディングデスクにしたとき、椅子を捨てたらめっちゃ部屋が広くなったぜ!スペースを使ってその椅子を置くってことは、椅子に家賃払ってるのと同じじゃん、まだ椅子で部屋を消耗してんのぉ?とか煽り散らしていたのに、気が付くと今はそのスペースにリングライトが鎮座していて、なんならリングライトにはカメラが付いたりコードが延びたりしていて、椅子が置いてある以上に確実にスペースを使っている。しかもリングライトには座れない。リングライトで確実に部屋を消耗している。

そんなある日、荷物を運んでいた際、足元もおぼつかない感じでリングライトに足を引っかけてしまった。リングライトは三脚が優秀なのか意外にも強靭で、ちょっとくらいの衝撃では一切倒れなかったのですが、僕はと言えば「足を引っかけた!」という意識だけが先行し、思いっきり体勢を崩して転倒しまった。

微動だにしないリングライトとひとりでに転ぶ僕。さながら一切手を触れずに気配だけで相手を投げる、柔術とか合気道の達人の技を受けたようで、なぜか僕は笑みがこぼれてすがすがしい気持ちになった。

ひとしきり過去の修行シーンと仲間たちに思いをはせ、「まだこんなにレベルの差があったとはな……」とかつぶやきつつ前を見たら、転んだ衝撃でピカピカと点灯しているリングライトが目に入る。

全く届かないと思っていたこぶしが、わずかに達人に触れていたんだ。その事実に、自然と胸が熱くなった。先生、僕にもまだやれることがあるんですね。

その後冷静になったら、なんか達人顔でデカデカと居座るリングライトにあまりにムカついてきた。なんだこのサイズ。蛍光灯と同じとかどう考えても大きすぎる。冷静に蛍光灯を机の前に置いて煌々と光らせてるやつとかヤバすぎる。蛍光灯の使い方を間違えてる。ついでにスペースだけじゃなくて電力も消耗してる。

ひとしきり文句を言って、結論を出す。三脚はゴミ捨て場に捨てて、リングライト本体にめちゃくちゃたくさんのアタッチメントを経由して、スタンディングデスクに直接噛ませて設置することにしたのだ。

そうしてリングライトは晴れて机の付属品となり、足元はスッキリ。パソコンを使えば自然とリングライトが目の前に。ああ、最初からこうすれば良かった。

きっと何者かになるには、こうした何でもない日常を繰り返しながらも、日々工夫を繰り返していくことが大切なのではないかと気づくことが出来ました。きっと今日の出来事はこの学びのためにあったんだ。

達成感とともにふと足元を見ると、なんだかいつもより床が汚れていることに気が付いた。

三脚が立っていることで、自分が想像しているよりも日常の可動域が狭くなっていて、無意識的に掃除の範囲にも影響していたようだ。

よし、せっかくだし掃除をしよう。そう思って、まずは大きなホコリだけでも掃除機で吸うことにした。スタンディングデスクは裸足で立つこともあるので、特に念入りに掃除機をかけよう。

せっかくなのでスタンディングデスクの自慢もしておくと、僕のスタンディングデスクは、畳を縦半分に割ったくらいの細長い大きさで、足元にフットレストとなるバーが通っている。

(イメージ画像を探したら、まんまこれでした。)

高さのちょうどよさはもちろん、細長いため軽くて移動しやすく場所を取らず、横にはラックが付いているので収納力も抜群だ。あれ?もしかして皆さんはまだ机のスペースで消耗してますか?^^

とまあ、非常に気に入っているスタンディングデスクなのですが、実はこのフットレストは曲者です。

足を置くときは気持ちいいのですが、掃除をするときにはフットレストが仕切りとなり、いっぺんに掃除機をかけられない。掃除機をかけるときには思いっきりかがんで、フットレストと床の間に掃除機のノズルを差し込みながら掃除をする必要があるのです。

そんな時、僕は結構適当な人間なので、掃除機のノズルがフットレストに当たっても特に気にしないのですが、それでいつも奥さんに怒られています。

この日もいつも通り掃除機をかけている途中、案の定思いっきり掃除機のノズルがフットレストにぶつかる音がした。またやってしまった。そう思ってため息を吐いた瞬間、事件が起こってしまった。

机がぐらりと揺れ、そのまま反対側に倒れてしまったのだ。

とんでもない音と共に、机の上、収納棚の物が飛び交う。

何が起きたのが理解できなかったが、ふと気づく。

ああ、リングライトだ。

机の反対側に着けていたリングライトがめちゃくちゃ重くて、机のバランスがおかしくなっていたんだ。

そりゃ元々あれだけデカい三脚で支えていたんだし、重たいよな。

掃除をしたら逆に部屋が汚れるという異常事態に直面しつつ、同時にどこか冷静な自分がいた。

なぜなら、倒れたリングライトが、今度は光ることなく静かなままで、それが僕にはどこか、反省している様子に見えたからだ。

そんなつもりじゃなかったんだ、許してくれと。仁王立ちだった先ほどと比べて、倒れたまま自分では起きられないリングライトの姿は、なんとなく可愛く思えて。武道の達人がスマホの使い方を弟子に聞くような、そんな微笑ましさを覚えていた。

やれやれ、仕方ないな。

倒れた机の反対側に回り込み、僕は一気に机を持ち上げた。

非力な僕なそれだけで筋肉痛になりそうだったが、リングライトのために頑張って支える。

取付位置を見直して、今度は倒れないようにしなきゃな。

そう思った瞬間。

バキッという音と共に、足に激痛が走った。

リングライトが落下してきたのだ。

倒れた衝撃でアタッチメントが壊れていて、いよいよ重さに耐えられなくなったのだ。

のたうち回る僕を尻目に、先ほど同様床に落下しているリングライトだったが、今度は何故か自慢げに見えた。まだまだ若いもんには負けんぞとでも言いたいかのような、技を極め込んだ後のドヤ顔をしていた。間違いなくしていた。

何が達人だ!このくそリングライトが!!僕はそう叫び、激怒した。

リングライトなんて捨ててやる!お前は達人でも本当の道場主は僕の方だからな!破門してやる!!

ふう。

冷静になったところで、リングライトは10000円以上したし、捨てたくないと思い直しました。三脚はゴミ捨て場に持って行ってしまったので、慌ててゴミ捨て場に取りに行かなければ。

机の上の荷物が散らばり、ぐちゃぐちゃになった部屋を、つま先だけで歩いて外に出る。

激怒したりゴミ拾ったり、とても成功者にも人格者にも程遠いな。そんな事実に恐怖しながら、「浮足立つ」には「不安や恐れで落ち着きを失う」という意味があることを思い出しました。

同じ浮足立つならせめてふわふわとつま先歩きをしていたい。そう思ってかかとを上げたら足が痛くて、おいおい筋肉痛早くないかと思ったら、転倒した時とライトが落下した時の跡が、めちゃくちゃ大きな青アザになっていました。想像以上に軟弱すぎる。

でも、時間と共に左足だけ徐々に青くなっていく様子を見ると、もし全身に青アザが出来れば、それはさながら3D映画のアバターのようだなと思い、ああ、何者にもなれないと思っていた自分も、確実にアバターにだけは近づいているんだ。やっぱり人は何者にでもなれるんだと強い自信を抱き、今日も何者にでもなれる日常が過ぎていくのでした。

執筆者 | 21/03/23 (火) | コラム


106 ビュー

読み込み中...