ストロベリー・ストーリー 赤くて甘くておいしい苺 第2話

執筆者 | 21/03/23 (火) | コラム

こんにちは。アリスカーナの竹内睦(たけうち ちか)です。
ストロベリー・ストーリー第2話もお読みいただきありがとうございます。
第1話はこちらからどうぞ。

———————————-

それから1時間ほどして、コーヒーを入れに立ち上がったとき
また電話が鳴った。

そして、同じようにファックスのピーッという音。

あ~さっきのだな。
まだ間違いに気づいていないのか。

今度届いたものは、さっきの話の続きのようだった。

—————————————-

店番の女が、ものかげから、新しい白い箱を出してきて、
残りの2つの箱の間に置いたのです。

そう、あなたが選んだおいしい苺の箱があった場所に。

そして、
「赤くて甘くておいしい苺!残りあと1つ!」
と書いた紙を、よく見えるように置きなおしました。

あなたは、苺を口に入れながら、
なぁんだ!と思いました。

残り1つというのに、つられたな、
まだあるんじゃないか。

まもなく、1台の車がやってきて、屋台の前でとまり、
男と女が降りてきました。

二人は相談しながら、苺を選んでいます。

あなたと同じように、汚れた箱は避けたようですが、
2つの箱のどちらにするかを、くすくす笑いながら
話し合っています。

結局、右端の箱を選んで、車に乗って行きました。

あなたは、こう思います。
「あーあ、真ん中のを選べばよかったのに。
どうして、匂いをかいでみないんだろう」

すると、店番の女はまた新しい箱を出してきて、
今度は右端におきました。

しばらくして、屋台の前に1台のバイクが止まり、
男が降りてきました。

男は、あなたと同じように、3つの箱に顔を近づけて
匂いをかいでいます。

あなたは、こう思います。
「そうそう、匂いをかいで、
甘くておいしい苺が入っている、真ん中の箱を選ぶんだよ」

ところが、
男は、なんと、左端のうす汚れた箱を手にとって
お金を払って行ってしまったのです。

あなたは、信じられない!と思いました。

そして、
「おいしい苺はあと1つだけ」といいながら、
次々に苺の箱を出してきて、
普通の苺や普通以下の苺を売っている女のやり方に、
だんだん、腹が立ってきました。

あなたは、まだ苺が残っている箱を持って立ち上がると
屋台の表に回り、いま見たことと自分の腹立ちを、
女に話しました。

すると、女は、あなたの目をまっすぐに見て
にっこりと笑いました。

そして、こんなことを、言ったのです。

女「わたしが売っているのは苺じゃないわ。
わたしがここに並べて売っているのは人生なのよ」

あなた「人生!?人生を売ってるって!?」

とまどうあなたに、
店番の女は、ゆっくりと話をしはじめました。

—————————————-

人生を売っている?

箱に入っているのは苺なんだろう?

意味がわかんないよ。人生ってなんだよ?

つまらない話だ。もう気にするのはやめよう。

仕事の邪魔だ。
そう、今はビジネスプランを考える仕事の時間なんだ。
邪魔しないでくれよ!

けれど、また1時間して電話が鳴り、
ピーッというファックスの音が聞こえると、
彼は急いで、立ち上がっていた。

—————————————-

あなたは、旅の途中で、とても疲れていた。

だから、甘い苺が、とてもとても食べたかったのよね。

でも、甘くておいしい苺は、
3つの箱のうち、どれか1つだけ。

そう、人生には、
そういういくつもの選択が待ちうけているものよ。

あなたは、最初、目で見て判断して、
汚れた箱を選ばなかった。

それから、匂いをかいで、2つのうちの1つを選んだ。

そして、甘いおいしい苺を食べて、満足。

あなたの選択基準は自分の感覚で確かめるということなのね。

後から来た二人連れは、汚れた箱は選ばなかったけど、
残りの2つのうちから1つを選ぶのには
それほど慎重ではなかったみたい。

たぶん、彼らにとっては、別に普通の苺でもよかったのよ。
おいしい苺だったら、ラッキーだな、くらいの感覚なんでしょう。

彼らにとっては、苺の質がどうこうよりも、
二人で相談して決めて、一緒に食べるということのほうが
大切なことなのかもしれない。

今頃はきっと、おいしいね、甘い苺を選んだね、と満足しているでしょう。

彼らの選択基準は、自分ひとりで判断せず、誰かと相談することね。

汚れた箱を選んで行った男は、
彼なりに十分時間をかけて選んでいたわ。

あなたと同じように、匂いをかいでね。

そして、あの汚れた箱にお金を払った。

もしかしたら、今までにキレイな箱や、いい匂いにだまされて
失敗したことでもあるのかもしれない。

それで、裏をかいてあの汚れた箱を選んでいったのかも。

そうだとしたら、彼の選択基準は、
常識を疑ってかかるということかもしれないわね。

あなたは、苺ではなく人生を売っているという女の話が
なんとなくわかったような気がしました。

そうか、これから先の人生では、こうやって、
いろんなことを選び取っていく場面が、何度もやってくるんだな。

あなた「今日は、甘くておいしい苺を選ぶことができてよかったよ」

これからも、五感を働かせて、自分を信じて正しい選択をしていこう、
そう言おうと思ったとき、
女がくすくす笑い出しました。

女「どうしてわかるの?甘くておいしい苺を選んだって。
他の苺を食べてもいないのに。
もしかしたら、他の箱の苺は、匂いが外にもれないように
何重にも包んでいたかもしれないじゃないの」

—————————————-

どうしてわかるのだって?

だまされたってことか?
甘い苺だと思ってたのに、ウソだったのか?

なんか嫌な感じだなぁ。

もし、俺がそんな風にだまされたら、きっと怒るぞ
いや、俺じゃなくったって怒るだろうさ。

人を喜ばせておいてなんだよ。

彼はもう一度コーヒーのおかわりを入れに行き
そして、なんとはなしに電話の前に立っていた。

そう、いつのまにか、ファックスの続きを待っていたのだ。

それはまた1時間後にやってきた。

・・・・・・・ピーッ

   つづく


※苺?の画像はPROGRESSメンバーの池本幸大郎さんの暁いちご農園のものをお借りしました?

執筆者 | 21/03/23 (火) | コラム


44 ビュー

読み込み中...