城山三郎という作家がいる。戦後の作家で直木賞受賞者である。若い頃から文学、特に純文学に夢中になってジェイムズ・ジョイスを熟読したほどである。ジョイスは20世紀前衛文学の極北といえる作家である。要するに一般読者を寄せ付けない「難解な文学」である。
しかし、城山は文学青年には珍しく経済についての造詣があり、初期には経済をテーマにした作品を書いて、純文学の畑ではなく大衆小説の畑で活躍したため、芥川賞作家ではなく直木賞作家となったタイプである。
(大衆小説で活躍する作家の多くに純文学どっぷり作家はいっぱいる)
直木賞受賞後、経済小説から歴史小説へと移行する時期に、渋沢栄一を題材にした『雄気堂々』があり、一般的に代表作とされる『落日燃ゆ』がつづく。『落日燃ゆ』はA級戦犯となった広田弘毅を題材にしている。あるいは、濱口雄幸、井上準之助を題材にした『男子の本懐』を名作とする文学者もいる。つまりは、近現代の経済や政治をテーマにしたノンフィクション小説の名手といった評価が一般的で、所謂、お侍さんの出てくる歴史小説のイメージは希薄だが、経済小説のイメージから、NHKから大河ドラマ用に呂宋助左衛門を題材にした原作小説の執筆を依頼されている。それが『黄金の日日』(1978年)である。
『黄金の日日』は豊臣秀吉から徳川時代の初期あたりまでの時代背景になるが、同じような時期を題材にした『秀吉と武吉 目を上げれば海』を後に発表している。これは村上水軍の大将・村上武吉が題材だが、同時期に直木賞を受賞した白石一郎の名作『海狼伝』もあり、どういう偶然か村上水軍がテーマなので、城山三郎の方は白石の陰に隠れてあまり有名ではない。
さて、そんなわけで、城山三郎は経済、政治を扱った近現代ノンフィクション小説においてその力量を発揮するのだが、あまり近世以前の歴史小説のイメージはないのである。
しかし、そんな城山三郎にも、ちゃかし的にはとても愛着のある歴史小説があるのである。それがもちろん、今回の『冬の派閥』である。これがほとんど無名に近く、文学史から埋もれているのが切ないのである。大河ドラマになって欲しいのだが、まあ、無理だろうなあ。
さて、『冬の派閥』だが、時代背景としては江戸末期から明治初頭までなので、やはり城山得意の近現代ではある。
主人公となるのは徳川慶勝で、最後の徳川将軍・徳川慶喜の十三歳上の親戚である。
内容としては、江戸末期から明治という、歴史的大転換が生み出す途方に暮れるような理不尽に振り回されて行く尾張藩主および尾張藩の壮絶な、そして悲哀に溢れた記録である。
さて、今回のコラムは取り敢えずここまでにしまーす。
次回はいよいよ『冬の派閥』の内容に言及でーす。
めちゃくちゃ話が長いじゃないか!!
となるかもしれませんが、こっちは日本中を探してもこのコラム以上のものはないという意気込みでライフをワークしているので、めちゃくちゃ長くなりまーす。
ごめんねごめんね~!!
つづく。
※城山三郎・・・1927年(昭和2年)8月18日生。
2007年(平成19年)3月22日没。
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