“悪魔的売り上げ”月間150億ゲーム『ウマ娘』の凄さ

執筆者 | 21/04/25 (日) | コラム

※記事内の画像は全てゲーム内画像の引用です。

“悪魔的売り上げ”月間150億ゲーム『ウマ娘』の凄さ

月間150億円の売り上げをたたき出した大ヒットゲームウマ娘。

このゲームが何故ここまで人々を熱狂させるのか、その一端をお伝えしたいと思う。

『ウマ娘』は、『ウマ娘』を育成し、その強さをネット上でライバルたちと競い合わせるゲームだ。

『ウマ娘』は、現実の競走馬を擬人化したような存在だとおもってもらえればいい。

例えば、このキングヘイローも実在の競走馬「キングヘイロー」をモデルにしたウマ娘だ。

まず、このステータスの脚質適正に注目してほしい。

脚質というのは、そのウマの得意な走り方を表しているのだが(「逃げ」は序盤から先頭で走り続けて、「逃げ切る作戦」「差し」は序盤~中盤までは後方で様子を伺いつつ、レース後半からスピードを出して「差し切る作戦」)、キングヘイローは逃げがG(絶望的に苦手)となっている。

これは現実のキングヘイローが1998年の日本ダービーで、「逃げ」の作戦を展開したものの、序盤に飛ばしすぎて失速してしまい14着に終わってしまったという「史実」があるからだ。

スピードやスタミナといった基礎能力は、練習することで数値を上げることができるが、この適正はそのウマの生まれ持った才能とも言うべきもので、簡単に上げることはできない。

そしてまた、このウマ娘を育てるストーリーにも「史実」の要素が盛り込まれている。

現実のキングヘイローが迷走の末、高松宮記念(短距離レース)で悲願のGⅠ制覇を達成したように、ウマ娘のキングヘイローも「短距離A」の適正でありながら中・長距離のレースに挑んでは惨敗を繰り返すというシナリオが描かれている。

さぁ、ここまで読めば往年の競馬ファンにとって「ウマ娘」が面白いゲームであることはわかっていただけただろう。

しかし、「競馬」というニッチなテーマに「美少女」を組み合わせただけではここまでのヒットにはならなかったはずだ。

ウマ娘の成功には、日本が生み出したゲームの名作「パワプロ」や「ときメモ」の要素をふんだんに取り入れた高いゲーム性と、誰もが熱くなれる名シナリオの存在がある。

「負け組の星」ハルウララ

ここからは、競馬ファンでないが名前だけは知っているという人も多いだろう「ハルウララ」のシナリオを紹介しよう。

現実のハルウララは、2003年頃から「勝てない競走馬」としてメディアに取り上げられ、競馬ファンの枠を超えてブームを起こした競走馬だ。

その生涯戦績は113連敗(0勝)

負け続けながらも頑張って走るその姿が「負け組の星」として全国的な人気と知名度を博した。

そんなハルウララを、このゲームでは自分の手で育てることができる。

『ウマ娘』のハルウララは、元気いっぱいで走ることが大好きな女の子だ。

しかし集中力がなく、練習中に見つけた蝶々を追いかけてどこかへ行ってしまう…やや落ち着きのない子である。

同じようにトレーニングセンターに通うほかのウマ娘には「スペシャルウィーク」や「ライスシャワー」など日本を代表する名ウマ娘が存在し、ハルウララは明らかに見劣りする。

だが、ハルウララは「走ることが楽しい」からレースでボロ負けしてもどこ吹く風で、いつも笑顔だ。

(レース後のハルウララは、たとえ負けても両手を上げて大喜び。ほかのウマ娘は1着になれなければ、後ろにいるウマ娘のように下を向いてレース場を後にする)

勝ち負けに何の執着も持たない、そして勝てないウマ娘。

そんなハルウララにも一定数のファンは存在する。

負けても楽しそうに走る姿を見ると元気がもらえると、商店街ではハルウララの応援会などもできるほどだ。

勝つことがすべてじゃない。たとえ負けても頑張って走る姿は多くの人を勇気づける。

勝ち負けに捉われ、他人を出し抜くことばかり考えている私の心を洗い流してくれる。ハルウララはそんな存在だ。

しかし、競馬の世界は甘くはない。ただ走っているだけで許される世界ではなかった。

ウマ娘の世界の競馬はギャンブルというよりもスポーツに近い。

もちろん、ウマ娘たちも生活があるので、出走手当や賞金はあるのだろうが(もしかしたら高校野球のように観客は入るが報酬が無い可能性もある)、彼女たちが勝利の先に目指すものはライブのセンターである。

このゲーム世界において、ウマ娘たちはスポーツ選手兼アイドルのような存在と言っていいだろう。

AKBが人気投票でセンターを決めるように、ウマ娘たちはレースでセンターを決めるのだ。(順位が低いほどライブでのポジションも後ろになる)

なので、多くのウマ娘たちは「勝ってセンターで歌い踊りたい」「センターに立って万雷の拍手を受けたい」というモチベーションの元にレースに挑んでいる。

つまり、「勝てなくても楽しいからいい」というハルウララは異端なのである。

シナリオ中盤、いつも通りレースを走り終え、ライブに向かうハルウララは1人のウマ娘を目にする。

ハルウララと同じようにレースに破れ、バックダンサーの位置に甘んじている名もなきウマ娘だ。

ハルウララは、レースもライブもどの位置だろうが唯々楽しそうにしているのに対し、そのウマ娘はうつむいていた。

「センターに立ちたかった!悔しくて、笑えない!」

その様子を不思議そうに見るハルウララ。走ることがただ楽しいハルウララにとって、名もなきウマ娘の「悔しい」という感情は理解ができなかった。

時がたち、年末が近づいてくると、世間は「有馬記念」の話題で持ち切りだ。

「有馬記念」はファンによる人気投票で選ばれた名ウマ娘が出走するいわば「オールスター戦」。一年を締めくくる大レースである。

走ることが大好きなハルウララは、無邪気にこの「有馬記念」に出走してみたいと言い出し、ハルウララを応援する商店街も街ゆく人々に人気投票を呼び掛けるようになっていた。

そしてその場に偶然にもあの時の名もなきウマ娘が通りかかる。

「レースを本気で走ってるわたしたちを……バカにしないでっ!」

「有馬記念」は人気投票で出走が決まるレースだ。だから例え、結果の出ていないウマ娘でも、人気さえあれば出走することができる。

だからこそ、ハルウララにも出走のチャンスがあったわけだが、それは「勝利するため」に走るウマ娘を侮辱する行為でもあったのだ。

現実のハルウララとリンクする物語

これは、現実のハルウララにも似たようなことがあった。

ハルウララの人気はとどまることなく、世間の後押しもあって「ハルウララに中央競馬トップ騎手・武豊が騎乗する」という事態にまで発展した。

100戦して1勝もできない馬にトップ騎手である武豊が騎乗するのは前代未聞の出来事である。

その結果、武豊が騎乗したハルウララは11頭中10着と連敗記録をさらに伸ばすことになったのだが、そのレースの馬券の売り上げは、名馬たちが鎬を削るメインレースの倍以上の数字をたたき出した。

この現象に、武豊は苦言を呈したという。

「競馬の本質からかけ離れている」

本来競走馬というものは勝たなくては意味がないものだ。

勝てない馬は長生きもできない。

放牧されて天寿を全うできるのは、数々のレースを勝利し、名馬と呼ばれるようになったものだけ。

競走馬を引退したら屠殺されるものが大半だ。

そんな世界で、生涯1度も勝ったことのない馬が、GⅠレースを勝った馬よりも注目を浴びる……この現象には、武豊のみならず多くの競馬関係者が怒りを覚えたという。

それはウマ娘の世界でも同じ。

勝つための努力もせず、人の力を借りて「有馬記念」に出走しようなどとは、努力して夢の舞台を目指すウマ娘たちにとっては侮辱行為でしかないのだ。

この名もなきウマ娘の声を受け、ハルウララの考えに変化が生じる。

ただ人気投票で有馬記念に出るのではなく、実力を証明して有馬記念に出たいと……

キャラクターの成長で『史実』が変わる

ここでゲームの勝利条件も大きく変わる。

それまでは、ただレースに出走し最低でも5着以内に入っていればゲームオーバーになることはなかったが、次のレースの目標は1着。

もし、そのレースに負けた場合はゲームオーバーとなる。

ハルウララはJBCスプリントという大きなレースで勝利し、名実共に有馬記念に出走できるウマ娘を目指す。

見事レースに勝利すると、ハルウララの有馬記念への出走が決まる。

最初は「本当に出てもいいのかな?」と不安そうだったハルウララだったが、レース場の大歓声が彼女の背中を押した。

「出てもいいんだぁ。わたし、走っていいんだねっ!」

このハルウララは、もはや「負け組の星」ではない。

実力の伴ったGⅠウマ娘なのである。

そして迎える、運命の有馬記念……

プレイヤーは絶望の淵に落とされることとなる。

全プレイヤーを絶望させるストーリーテリング

この記事の冒頭で説明した通り、ウマ娘たちは現実の馬の特徴を現した固有のステータスがある。

キングヘイローが「短距離」以外は苦手だったように、ハルウララにも苦手なコースが存在する。

ハルウララのコース適正は「芝G」「長距離G」。

つまり、芝・長距離のコースで走る有馬記念との相性は最悪なのだ。

「ただ走るだけで楽しい」と言っていた少女が「本気で勝ちたい」と願ったとき、残酷な現実が立ちはだかる。

努力では決して超えられない適正(才能)と言う名の壁。

ハルウララは最後方に取り残され、大差で最下位となってしまった。

夢の舞台で惨敗したハルウララは、笑顔でプレイヤーの元に帰ってくる。

しかし、その笑顔は私の知っているハルウララの笑顔ではなかった。

「楽しかったのっ……!すっごく、楽しかったんだよ~!」

ただ走るだけで楽しかったはずなのに。

その目には涙があふれていた。

ハルウララは、この有馬記念で初めて真の意味で負けたのである。

そして、この挫折が彼女の心に芽生えた初めての「悔しさ」だった。

この有馬記念、ゲームのシステム上は、「負けてもゲームオーバーにならない」いわゆる負けイベントだ。

ゲーム上、このまま育成を完了しエンディングを迎えることができる。

プレイヤーは、ハルウララの成長に涙し、頑張ったハルウララを褒めたたえ、そっとスマホを閉じる。

だが………

神は言っている。ここで終わる定めではないと。

そう、この有馬記念……一見負けイベントに見えながら、実は攻略することもできるのだ。

ウマ娘にはスピードやパワーといった基礎能力だけでなく、想いを継承する(一度育てたウマ娘から一部の能力を引き継ぐ)ことで適正を強化する方法もある。

しかし、それは普通にプレイして簡単にできるものではない。強い想いを継承するために、強いウマ娘を何人も育てる必要があるのだ。

神(運営)は言っている。

ここで課金するのだと。

これが、このウマ娘が悪魔的売り上げを叩き出している所以のひとつと言えるだろう。

プレイヤーの努力と課金次第で、ウマ娘の過酷な運命を塗り替えることができる。

ハルウララを有馬記念で勝たせてあげることもできるのだ。

もちろん、課金しなくてもウマ娘の強化は可能だが、それには膨大な時間を要する。

このシナリオを考えたのは人間か?

いいや、悪魔だ。少なくとも天才だ。

しかも、こういった努力(課金)次第で運命を変えることができるシナリオは、ほかのウマ娘にも用意されている。

おわかりいただけただろうか……このウマ娘の凄さ、いや恐ろしさを。

ここまでこの記事を読んだあなた。

もし、まだウマ娘をプレイしていないのなら、決してインストールしてはいけない。

あなたは本物の競馬以上に、このゲームにお金を使うことになるのだから。

※現在、PROGRESSウマ部を創部予定。

詳しくは前葉までご連絡ください。

執筆者 | 21/04/25 (日) | コラム


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