秋ですが、夏らしい香りの話をします【元バイオ研究者による酒雑学】

執筆者 | 21/10/18 (月) | コラム

 

みなさん、こんにちわ。

2021年1月入会の鈴木リカです。

 

私は元細胞生物学の研究者で、現在はお酒のお仕事をしています。

先月末から自分のアウトプットも兼ねてお酒コラムにトライしています。

今日は果物の香りシリーズの4つめ(おそらくラスト)を取り上げます。

 

■今日のいい香り:パイナップルのような「カプリル酸エチル」

なんか聞いたことあるような?と思った方。いつもお読みいただきありがとうございます。

実は数回前に「カプロン酸エチル」をりんごの香りとして紹介していました。名前がとても似ていますが、カプリル酸エチルはカプロン酸エチルと構造もよく似ています(炭素数が2つ多いだけ)。

 

香りも同様に果物様の芳香で、カプリル酸エチルの場合は「パイナップル」や「アプリコット」のような、南国系の果物っぽい香りがするようです。

日本酒ではあまりメジャーではありませんが、調べたところワインなどではよく知られた香りだということでした。

 

ここで今更ですが(笑)、カプロン酸やカプリル酸は脂肪酸の仲間です。これら脂肪酸を合成する時には、小さな(炭素数の少ない)脂肪酸から作り、徐々に大きく伸ばしていきます。(まずは4両編成の電車を作って、徐々に伸ばしていくイメージでしょうか?)

 

と言っても無限に伸ばすわけではなく、メジャーなのは炭素数16あたりの脂肪酸です。裏を返せば比較的小さなカプロン酸やカプリル酸は普通そう多く作られない(というか、作ってもすぐ次の反応に使われていってしまい、多く保持されない)ものです。

 

しかしこのままではカプロン酸エチルをたくさん作ることができません。そこでこの働きが鈍い(あまり長い脂肪酸をつくらない)性質を偶然持ちあわせていた酵母を見つけてきて、それをカプロン酸エチル高生産酵母として活用しているのです。

 

このような酵母では(同じく短い脂肪酸から作られる)カプリル酸エチルもわずかに検出されているようですし(カプロン酸エチルがメインなので分析したことはありませんが)、最近ではカプリル酸エチルに特化した酵母ができるかも、という話も聞きました(学会発表レベルですが)。

 

更にバリエーションが増えたら、楽しいですよね。また、日本酒をカクテルとして利用していく際にも幅が広がるのではないかと思います。

 

■今日の残念な香り:「酢酸エチル」

名前が似すぎている!という皆様、すみません(笑)。

こちらもエステルの一種となります(そもそもエステル系というのは香りがするものが多いのです…)。

 

アセチルCoAとエタノールの反応から作られます、ということからわかるように、存在して当然の香りとなります(アセチルCoAもエタノールもたくさんあるので…)。

 

その香りはというと「シンナー」「セメダイン」「除光液」などに例えられます。こういわれるといい香りに思えませんが、実はよく熟したメロンなどに含まれている香りでもあります。薬品っぽい香りなので苦手な人もいますが、私は耐性があるようで(理系あるある?)、過度でなければメロンやピーチのように感じて実は嫌いじゃなかったりします(笑)。

 

実際のお酒でも多少であれば問題とされませんが、他の香りとのバランスが悪くて目立ちすぎている場合や、意図せずその辺の酵母に乗っ取られて異常な発酵をしてしまった場合などでは欠点になります。

 

■おわりに

いかがでしたでしょうか?

 

実は日本酒の香りは100種類くらいあると言われていて(おそらく感知できないほど少ないものも含まれているので実際はもっと少ないとはいえ)、この調子ではいつまでたっても終わらなさそうです!(笑)

 

フラワリーな香り、熟成に伴う香り、など香りでも書きたいことはまだあるけれど先へ進むべきか…考えます。

きき酒に限らず、質問や書いてほしいテーマがあればいつでもどうぞ!

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

ではまた!

執筆者 | 21/10/18 (月) | コラム


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