4月16日、Crahsが東京・渋谷のLIVE STUDIO LODGEにてワンマンライブを開催した。
年明けの「あげくぼ!」で突如発表されたライブ開催の知らせ。そしてその発表からちょうど100日後に当たるライブ当日までの、彼らの新たな挑戦の記録を綴る。
「Crahsとは、音楽と共に暮らす日々を作るポップバンドです」
そう語るボーカリスト・久保卓人のやわらかな言葉とは裏腹に、泥だらけのままに走り抜けた彼らの、これは100日間の奮闘のドキュメンタリーだ。
笑顔の理由~スポットライトが照らさない景色~
ボーカル・久保卓人、ドラム・久保健人、サックス・米満まり枝、ギター・伊藤一道の4人からなるポップバンド・Crahs(クラス)。2022年最初のワンマンライブは、彼らのポップミュージックを代表するファンファーレ的な1曲「スポットライトベイビー」で始まった。ステージ上で眩しく照らさてた晴れやかな笑顔が、とても印象的だった。
昨年は5回のワンマンライブを敢行したCrahs。初めての無観客ライブにも挑戦し、大きなモニターの向こう側、オンラインで繋がるファンに向かってその音楽を届けたライブも素晴らしかったが、実際にファンの笑顔と声援を前にした今、彼らの瞳はより一層輝いているように見えた。
「大人見なんかさせないよ!」と楽しそうに煽るボーカルと、それに喜んで応えるオーディエンス。そう、これがCrahsのライブだ。こんな風に、来場者とのコミュニケーションによって生まれるグルーブが実に心地良い。曲を重ねるごとに、ライブハウスの熱はさらに高まっていく。
この日のライブをこんなに晴々とした表情で迎えているのは、この瞬間にたどり着くまでの奮闘の日々があったからに他ならない。ポップで柔和な表情の裏には、スパーリングに汗を流すボクサーのような、闘いの100日間があった。
2つの挑戦 ~Road to ワンマンライブ~
2022年1月6日、ボーカル久保卓人の弾き語り配信はちょうど100回目を数えた。この日はいつもの自宅からの配信ではなく、スタジオライブという特別仕様。そのライブの合間に久保卓人は、バンドとしての2022年の目標を語った。
「今年はCrahsのことをもっと多くの人に知ってもらいたい」とした上で、より遠くまでその声を届ける為に、「Tiktok・YouTube Shorts・Instagram Reelsで100日連続カバー動画投稿」、そして「YouTubeLiveで3ヶ月連続スタジオライブ配信」を宣言した。そしてそれらを達成した100日後に当たる4月16日に、今年一発目のワンマンライブを開催することを発表したのである。
「常にオーバーワーク気味の挑戦をしていないと『頑張ってる』は伝わらない」と、久保卓人は真剣な表情で語る。その眼差しからは熱意とも決意とも取れる熱い温度を感じた。
Crahsと言えば、日常の様々なシーンをポップに彩るポジティブな音楽性と、見ているだけでこちらも目尻が下がってくるような、ほのぼのとしたアットホームな雰囲気が大きな魅力の1つだ。しかし、彼らが内に秘めた想いを聴くと、ただ「音楽が好きだから」という理由だけでこの場所にいるのではなく、ここまで10年以上アーティストとして前線で闘って来たからこそ語れるシビアな現実があることを改めて思い知らされた。
怒涛の日々 ~100曲カバーチャレンジ~
さて、そこからはまさに怒涛の日々だ。100本のカバー動画のストックなど当然あるはず無く、常に選曲・音源の打ち込み・レコーディング・動画編集に追われる事となる。ドラムとベースラインを打ち込み、ギター音源の録音、その音源に合わせてボーカルレコーディングと撮影を行い、動画編集を仕上げる。これを、100曲繰り返すのだ。
「2月にストックが無くなりかけた時はめちゃくちゃ焦りましたね(笑)」と、久保はあっけらかんと笑うが、体力的な負荷も、精神的なストレスもきっと想像以上のものだったろう。なぜなら皆がバンド一筋の生活ではない。仕事も家庭もある、まさに兼業音楽家たちだ。その中で、あえて自分たちを追い込んでチャレンジする背中を見せることの対価は、果たして何だろうか。
技術面で得られたものはもちろん多くあった。数をこなしただけあって、DTMの打ち込みやレコーディングのスピードも精度も上がった事を彼らは実感していると言う。
「健人も動画編集がめちゃくちゃ早くなってる」というが、動画で情報を得る事が当たり前になっている今、楽曲やライブパフォーマンスだけでなく、バンドのストーリーや人間性をファンに伝える手段として、動画編集スキルもミュージシャンの大きな武器と言えるのかもしれない。
さらに、「シンプルなベースラインでも楽曲に面白みを出せるんだ」「こんなメロディラインだからリズミカルに聴こえるんだ」というような、カバー曲の打ち込みを数多くこなしたからこそ見える構造的な理解であったり、「ベースやドラムのフレーズの引き出しが増えた」というような、今後の楽曲製作やアレンジに新しいインスピレーションを与えるであろう学びもあったという。
応援を背に ~YouTube LIVEチャレンジ~
そしてもう一つの大きなチャレンジ、YouTubeライブだ。PROGRESS TVではこれまで何度も弾き語りやスタジオライブを配信してきた彼らだが、やはりPROGRESS内でのアットホームな配信と、外部サービスでの配信は緊張感が違うようだった。
Crahsのライブ配信を技術面で支えてきたPROGRESSの仲間、そしてコメント欄にもPROGRESSメンバーが応援にかけつける事で、まさに「皆に見守られながら」の温かいスタジオライブ。不安と多忙の中、3ヶ月連続でやりきった。
「有言実行することが、今回の1番の課題でした」と久保卓人は語る。「100曲やるって言ったらやる。YouTubeライブを毎月やるって言ったらやる。音楽性でも創造性でもなく、もはや根性の世界だと言い聞かせてましたね。」
3月にもなると、いよいよワンマンライブの内容もリハーサルも詰めていく必要がある。カバー動画も次々とストックを貯めなければならない時期だ。「今日から毎日2本ずつ動画を作れば、4月はライブの準備に専念できるぞ!」とメンバー同士で励まし合いながら、何とか3月を乗り切った。
そして4月、ライブのミーティングやリハーサルももちろん重ねながら、今度はライブ配信の為の準備だ。配信チケット購入者専用のFacebookグループを立ち上げ、Crahsのライブをより楽しめる為のコンテンツを投稿していく。【ライブでほぼ確実に演奏する楽曲のプレイリスト】をシェアするアイデアも、ライブを「オーディエンスと共に作るエンタメ」と捉えているCrahsならではだ。そして本番直前の最も大切な仕事の一つ、ライブのプロモーションも、もちろん手を抜かない。
今日の先へ ~フィナーレの続きを話そう~
そして4月16日、LIVE STUDIO LODGEのステージで彼らはポップミュージックを華々しくを響かせた。「限界突破、出来ますかー!?」と子どものような笑顔で客席を煽るボーカル・久保卓人。2歳の息子さんに見守られながら、サックスを縦横無尽に奏でる米満まり枝。唸るようなテクニックと表情で客席を魅了するギタリスト・伊藤一道。飾らない笑顔と、演奏中の情熱的な表情とのギャップがたまらないドラマー・久保健人。スポットライトを浴びながら、全身で歌い奏でる彼らの笑顔の裏には、まるでスパーリングを続けるボクサーの様な、1日1日の積み重ねがあった。
彼らが過ごした怒涛の日々の先にあったものは、一体何だったのか?
挑戦と鍛錬の中で得た学びもそうだろう。
ライブ終演後の達成感と充実感もそうだろう。
50席用意された来場チケットのSOLD OUTの知らせもそうだろう。
しかし、一番の宝物は、ライブ会場で、そして配信の画面越しで、見守ってくれるファンとの絆だ。
ホントは俺たち、強い風が吹くとすぐ倒れちゃうようなやつらなんだよ。
だから、どれだけ風が吹いても倒れないように勢いをつけて
ちょっと無理して走ってるだけなんだよ。
皆の支えが、これからも必要なんだ。
久保卓人は終演間際、静かに、しかし熱を込めて語った。「思いついたら実行しないと気が済まない」と自他共に認めるパワフルな有言実行力も、弱さを見せないため。「ポップミュージシャンが前向きじゃなかったら、メッセージも伝わらないでしょ?」いう言葉は、決して強がりには聞こえなかった。どこまで行っても彼らはポップバンドなのだ。
ライブハウスが笑顔と歓声で溢れる中、2022年最初のCrahsのワンマンライブはフィナーレを迎えた。年明けからクラウチングスタートを切って100日間を駆け抜けた彼らは今、何を考えているのか。もしあなたが「とりあえずゆっくり休んで」と考えているのならば、まだまだ、Crahsというバンドの底抜けの面白さを味わいきれていないかもしれない。
「止まっちゃうと死んじゃう病なんですよね」
彼らが次に一体何を仕掛けてくるのか、楽しみでならない。
Crahs「デイタイムワンマンライブ〜久保卓人生誕祭〜」
セットリスト
1.スポットライトベイビー
2.大丈夫
3.ひとりの夜から
4.明日から本気出す
5.ヘッドフォンズウォーカーの溜め息
6.タップダンスを月面で君と
7.日付変更線
8.名前のない音楽家
9.昨日の電話
10.月は出ていた
11.デイタイムクルージング
12.マジックミュージック
13.愛はまぼろし(新曲)
14.ビターパレードへようこそ
<アンコール>
15.言い訳
16.ソルトニックに氷を落として
Crahsのことがもっと知りたい方はこちら
文/間宮まさかず