「おれのこと忘れてない?」
そうだった。未成年の彼のかわりに、私がプログレスを見てくるという約束だった。
なぜ彼はこうも中田敦彦なるタレントが好きなのか。
彼は幼い頃から、視力によらない目の障害を持っている。歪んで見えたり重なって見えたり、とにかく活字を追うのがとても苦しいのだ。自然と勉強の仕方は耳優位になるので、なるほどエクストリームに説明されることで、スムーズに勉強が出来ている感覚にしてくれるようだ。
さらには父親を知らずに育っているから、博学多才で自分に影響を与えてくれる姿にある種の憧れもあったのだろう。
息子はしくじり先生のころからのあっちゃんファン。
2020年の緊急事態宣言で在宅勉強していた頃、YouTube大学を毎日の学校がわりにして、プログレスに入ってみたいと言うようになった。
ただ、これは大人のサロンであろうから、周りの空気を悪くしてしまうかもしれないし、周りに気を使わせてしまうかもしれない。ならば私が少し様子を見てくるから、と、その門戸を叩いた。
毎日のHRや授業、オンラインでの交流。何もかもが新鮮で、いつしか私が心の底から楽しんでいた。
「おれのこと忘れてない?」
「忘れてないよ、ちょうど、そろそろいいかなって思っていたところ」
忘れていたなど言えるはずもない。
あれから二年。今では私の背も優に抜いた彼と、ここでは楽しく生徒同士。パラレルワールドがあったならこんな感じなのかもと思う。
独演会ではトイレも行かずに、まっすぐにあっちゃんを見つめる息子と私の次の目標は、オリラジアカデミーに一緒に観覧に行くこと。
叶うといいな。