レミゼノも是非考えてみたいと思っていますが、その前に以前応募したストーリーをまとめてこちらに掲載してみます。かなり細かいところは端折ったストーリーなので急展開なところもあります。最後に後記もあります。カードの効果も組み込みました。(挿絵はMJで作成)
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かつて、英雄ソレイユが治める太陽に祝福される国があった。
プロードス王国である。
(Proodos ギリシャ語のPROGRESSという意味)
しかし、姉であるソレイユから疎まれていた野望と凶暴の化身でありソレイユの弟であり、いつからか異物という意味のゼノと呼ばれた皇子が、死神モルスの力を利用してソレイユに疫病をもたらし、治癒の祈りため地底の祈りの泉にソレイユが降りて行った瞬間に、地底への入口を封印してしまう。
そして、「ソレイユが地底に隠れてしまった」とお触れを出す。
混乱の中、ゼノが皇位を奪取し皇帝となる。
そう、ゼノ自身が好んで自分をゼノと公式に名乗ったのはここが始まりだった。
それまでソレイユの祝福の力で守護されていた平和なプロードス王国が、一夜にしてその守護を失い、他国からの攻撃も日に日に増していく。
国内も、ゼノ皇帝の圧政によって不満を抱く貴族のザフィーロを筆頭に、不穏な空気が漂い始める。
そんな中、ゼノは占い師アブドルに太陽の祝福の代わりになるような力はどこかに無いか、と問う。
アブドルが透視術を使って占うと、「ここから北東に山を5山、川を12本越えたところにある小さな村に、代々守護の力を持った少女が生まれるという。その乙女がいる村は守護の力で守られるという。その乙女をこの国に呼べれば、あるいは…」。
それを聞いたゼノは、すぐに黒竜兵師団長であるクラヴィスに捜索を命じる。
ほどなくリンネ村にいた、守護の乙女オリビアが見つかる。
ゼノの命令によりオリヴィアの村を取り囲み(守護の力の為、中には攻め込めない)村人の往来を防ぐという籠城戦を仕掛ける。
オリビアは村を救う為、村人の反対を押し切って、クラヴィスと共にゼノの待つ王宮へ行くと告げる。その時意外にも哀しみに満ちたクラヴィスの瞳が気になるオリビアであった。
オリビアを連れ帰ったクラヴィスはその功績への褒美として、兵師団長から騎士の称号を得て騎士団長に昇格し、代々の黒竜騎士団長に仕える竜犬アヌビスの子も与えられる。しかし、やはりクラヴィスに笑みは無かった。
オリビアは王宮の中央にある塔の尖塔、青い薔薇窓の部屋に閉じ込められる。
しかしそのオリビアの守護の力のおかげで、プロードス王国に対する他国からの攻撃はぴたりと止む。
一方、オリビアを連れ去られたリンネ村では1人の少年が旅支度をしていた。少年の名はノエル。オリビアの幼馴染だ。
彼はこの村の村長の玄関でカゴに入った状態で見つかり、子供のいなかった村長夫婦に大切に育てられた。小さい時から飛び抜けて敏捷で、気づけばこの若さで村1番の剣の腕を持っていた。そんな彼がオリヴィアを助けに旅に出るという。
腕が立つといっても所詮は少年、ゼノの待つプロードス王国で1人で戦って勝てるわけがない。
とはいえ、ノエルの決心は固い。夫婦は涙をこらえて送り出す。
村長夫婦はノエルを見送る際、彼を最初に玄関で見つけた時に、くるまれた毛布の上にそっと置かれていた、剣に竜が巻きついた指輪を渡した。不思議なことにその指輪は大き過ぎたにも関わらず、ノエルの指にはめた途端ぴったりと吸い付くようにはまったのだった。
ノエルは山を2つ超えたところで、魔物の森と呼ばれる森にさしかかった。
突然、切り裂くような悲鳴が聞こえ、緑の光が黒い魔物に追われているのが見えた。ノエルは駆け出し、一刀両断に魔物を倒す。
緑の光がおさまると、その光の中から美しい精霊が現れ、ノエルに近づいてくる。
「助けてくれてありがとう、私はこの森の精霊イレーネ。私の種族の掟として、助けてもらったら必ず何かを差し出して、交換しなくてはならないの。私は命を助けてもらったから、命を渡さなきゃいけないんだけど、ちょうど竜の子の赤ちゃんが産まれたばかりだったから、助けてくれたお礼にこの子をあげる。名前は竜を退治する有名な騎士の名前ジークフリートからつけて、ジークっていうの」と言って、イレーネはイタズラっぽく笑う。
「退治されたのは悪い竜だったからよ、この子はいい子だから悪い竜じゃないって証明にジークってつけたの。きっとあなたの役にたつわ」そう言ってジークをノエルに渡した。
「あなたの事気に入ったようね!」
驚くほど可愛く懐くジークを、ノエルはすっかり気に入った。人間の言葉もわかるようだ。
「ありがとう!もう魔物には気をつけるんだよ」そう言ってノエルはジークと共に王宮を目指す。
その頃益々ザフィーロと貴族たちの動きが看過できなくなってきたゼノは、決して笑わない賢者ロレッタに相談する。実は誰にも心を開かないゼノが、幼いころから唯一この王国で安らげるのが、このロレッタの前だけであった。
ロレッタは言う。「あなたは昔から不器用ね。すぐに敵をつくる。ザフィーロは、すでに貴族連合を固めている。でも烏合の衆だから、今叩けば間に合うかもしれない。ザフィーロが声高に主張する決闘に応じるか、もしくは暗殺するか。でも暗殺するって言うことは、さらに大きな反乱が起こってしまうかもしれない。ザフィーロの圧倒的な財産と政治力は侮ってはいけない。あなたはどちらかを選択しなくてはならない。」
「ああ見えてザフィーロは剣の達人、代理をたてるのはどうだろう」
「いいと思うわ。でも万が一を考えて、あなたの近くの身近な人間じゃない方がいい。いっその事こと、世界中から強者集めて最強を決める御前試合をさせて、優勝した者をザフィーロとの対決相手に選ぶのはどう?」
「そうしよう」そう言ったゼノを見て、相変わらず微笑すら見せないロレッタが、小さくうなずいた。
翌日、世界中に向けてプロードス王国から1ヶ月後の御前試合の参加者を募るというお触れが出された。優勝者の褒美は500万ハーツ!田舎なら家が建ち馬が3頭買える。
そして世界中の腕に覚えのある者が、プロードスに集まってくるのであった。その中には、肩にジークを乗せたノエルの姿もあった。
その上空に浮かぶ雲からほんの少し垣間見える天空の神殿が、静かにプロードス王国を見つめているのだった。
王宮の広場には、多くの剣士が集まっていた。御前試合に出られるのは5人のみ。その5人を選ぶのはクラヴィスの役目だ。
そのほとんどは、クラヴィスに全く歯が立たない。数日後のある日、まだ見た目が少年ながら、ただならぬオーラを放つ剣士がいた。
クラヴィスは、剣を交わしてすぐ気付いた。これは… そして、少年の指にはめられた 竜と剣の指輪を見て、全てを悟った。(「ああ…待ちくたびれたぞ!」)
そして、ワザと鍔(つば)迫り合いに持ち込み、周りの誰にも気付かれないように「今晩、第二第三夜警時の間に南門から100歩行ったところにある小屋まで来い。質問は無しだ、誰にも知らせずに来い」とノエルに告げる。
ノエルがハッとなった瞬間、クラヴィスが派手に転び、「よーし、合格!」の声が聞こえ、群衆がやんやと囃し立てる。そんな人混みを一度も振り返らずに、クラヴィスの背中が人混みに消えていく。
夜が来た。ちょうど日付けが変わる時間、「僕は暗殺されるのか?」そんな緊張感で刀の柄に指をかけつつ小屋に進む。
ふと気配も無くクラヴィスが横に立つ、「黙って歩け」そう言って小屋からさらに離れた暗闇へと進む。その後を竜犬アヌビスも続く。
ようやくクラヴィスが口を開く「あなたこそ、伝説の竜騎士カール将軍の息子!」。
わけが分からず戸惑うノエルをよそに、クラヴィスは続ける。
「その目元、御父上にそっくりだ。荒いが剣筋も不思議と似ている。そして確信したのは、その指輪。それはカール将軍の代々竜騎士将軍家に伝わる指輪。指輪が持ち主を選ぶと云われ、それ以外の人間にははまらない。」
「そういえば」ノエルはつぶやく。この指輪をはめてから、自分の体が自分のものじゃ無いように素早く強くなった気がしていた。「それはこの指輪のせいだったのか。」
「御父上は、先の大戦で巨大サラマンダーと熾烈な闘いをされ、最後に地底に追い込むも抑え込む際にご自身もろとも封印する様にと言い遺されて… 私はまだその時見習いだったが、今でも最期のお姿は覚えている。」
「おそらく御母上は、自分と居るとあなたが狙われる事を恐れて、あえて御父上の生まれ故郷にあなたを預け、あなたから離れる決意をなされたのであろう。」
そしてクラヴィスは力強い希望に満ちた目でノエルを見つめ、「竜騎士将軍家は、竜を制する事が出来る特別な力を受け継ぐと云われている。」と告げた。「すでに1匹従えているようだ、フフ」と、ジークを見て笑った。
「僕はどうすれば?ただオリビアを助けたいだけなんだ!皇帝に近づく機会をうかがうために、この御前試合にも参加する事にしたんだ。」ノエルがクラヴィスに問う。
「導かれたとしか言いようが無い。」
クラヴィスは続ける。
「あなたはこの御前試合で優勝する。そして皇帝は言うだろう『次は貴族ザフィーロと決闘しろ、望むものを褒美としてとらせる。』と。だからザフィーロに勝った暁にはオリビアを望むがいい。」
「だけど、皇帝が約束を守らなかったら?」ノエルは不安げに問う。
「頼まれた場で、契約魔法をかけてもらうように頼め。その魔法がかかれば、反故にした場合死に至る。皇帝は必ず約束を守る事になる。」
「わかった。ところで、オリビアは無事なの?」
「ああ、あの塔の一番上に居る。無事だ、安心しろ。閉じ込められては居るが、丁重に扱われていると聞く」
そして夜が白む前に、2人は別々の方向へ消えていった。
そして、御前試合の日がやって来た。
居並ぶ強靭な剣士の中に1人少年がいる事に、ゼノは訝しげであり、観衆は嘲り、剣士たちは侮った。
その全ての思惑を裏切って、ノエルは順調に勝ち進む。さすがに強い剣士ばかりではあったが、竜剣の指輪をはめたノエルの強さは群を抜いていた。
そして無敗のまま優勝したのだった。
ゼノは鋭い眼光でノエルを見つめる。皆がゼノを見つめる。
深いため息の後、「ようやった!みごとである!」そう言ってゼノは手を打ち続けた。観衆も側近も肩を下ろし、改めて目の前に突然現れた偉大なる少年剣士に拍手をおくるのであった。
ノエルは睨みつけたい衝動を抑えて、跪き、深く頭を垂れて応えた。
その夜、玉座に連れてこられたノエルは、先日クラヴィスが話していた話と同じことを聞いた。
「明後日行われる、ザフィーロという貴族との決闘に、余の代わりに出てもらえまいか。褒美にはお前の望むものを取らせよう。但し断る場合は、この先未来永劫、背中を気にして生きる事となるであろう」
選択肢はないということである。
ノエルは考えるふりをし、絞り出すような声で提案をする。「分かりました。決闘致しましょう、しかし一点お願いがございます。」
「申してみよ。」
「たった一つの願いを聞き届けるという、契約の魔法をかけていただきたく存じます。」
「ほう。余を信じておらぬのか。」ゼノの目が冷たく光る。側近に一瞬緊張が走る。
「いえ、負ければ死ぬ覚悟で臨みたく。自分の覚悟のためにございます。」
「ふむ。まあよい。アブドルを!」
アブドルが音もなく入って来る。
そして何やら呪文を唱えた後、空気が激しく揺れ、やがて静寂に戻る。
「契約成立致しました。」アブドルが静かに告げる。
王宮を後にして宿に戻るとき、ノエルは塔の尖端に見える丸く青く光る窓を見る。「オリビア、必ず迎えに行くよ。」
そして、決闘当日。
ザフィーロはその優雅な見た目とは裏腹に、いかにも達人の力強い素振りを繰り返す。
「強い…」ノエルは少し身を硬くする。
それを察したのか、クラヴィスが肩を叩き「案ずるな、信じろ。」そう言って微笑んだ。ジークも嬉しそうに最近覚えた小さな火吐きをしている。時々不思議そうに上空に浮かぶ厚い雲を眺めている。
それを見てノエルは少し落ち着いた。
ザフィーロがゼノに向かって大袈裟なほど恭しくお辞儀をする。ゼノが忌々しく眺めながらうなずく。
隣に立つロレッタは身じろぎもせず、冷たい瞳を投げかける。
ザフィーロは大いに不満であった。「せめて騎士団長との決闘かと思えば、こんなどこの骨ともわからない子供が相手だなんて。侮られたものだ!」
クラヴィスが立会人として、激しいドラムの音とともに登場する。
「両人、前へ!」
ノエルは先程の緊張が嘘のように、不思議に穏やかに包み込まれるような感覚を覚える。
「指輪か?いや、オリビア?!」
尖塔の部屋に幽閉されているオリビアは胸騒ぎがしていた。ノエルが来ている事を知る由も無いが、不穏な空気を感じ、祈り続ける。
ノエルがふと後ろを見るとジークが見当たらないが、今はそれどころでは無い。
クラヴィスが右手を高々と挙げ、勢いよく下げる。
「始め!」
飛び出すザフィーロ!押されるノエル!
いくつかの斬撃を切り交わす。
危ない!ノエルがそう思った時に、体が信じられない力を帯びて勝手に動き、気づけばザフィーロの喉元に剣の切先が、あと髪の毛一本の位置まで迫った。
「そこまで!勝者ノエル!」クラヴィスの宣言が響き渡る。
どよめく観衆。青ざめた顔で立ち尽くすザフィーロ。
ゼノの口端が上がる。
「ようやった、ノエルよ!見事であった!」
立ち尽くすザフィーロを横目に、手を打ちながら高らかに告げる。
「さあ、約束どおり願いを申すがいい。」
ノエルが進み出る。まだ息があがっているが、目には力が宿っている。
「では、塔に閉じ込められているオリビアを連れて帰らせていただきます!」
「なんだと?!」ゼノは、意表を突かれたと共に、契約魔法が発動したのを知る。
そして、気づけばクラヴィスがオリビアを連れて来ていた。
「貴様っ!」ゼノが叫ぶ。
「陛下、契約魔法をかけられたからには、約束を反故すると陛下のお命が危のうございました。」
「分かっておるわ!」
連れてこられたオリビアの見開いた目から涙が溢れる。
「ノエル…なんて事を、あなたの命が危険に晒されるような事をするなんて」
「オリビアはそれを村のためにやってくれたじゃないか。何より、オリビアが作ったチェリーパイがこれ以上食べられ無いなら、僕はどのみち死んじゃってた!」そう言ってノエルはイタズラっ子のように片目を閉じる。
それを見てようやくオリビアが微笑む。
カツッカツッカツッ!
高級そうな靴音が、突然玉座へと向かう音がした。
ザフィーロが駆け出していた。
気づいたクラヴィスが後を追うが、
「間に合わん!」
ゼノは動けない。
その時。
飛び出した影にゆるやかな三つ編みが舞う。
ゼノに覆い被さるように、ロレッタが倒れる。ザフィーロの短剣がロレッタの背中に突き刺さる。同時にアヌビスがさらに大剣を抜こうとするザフィーロの右腕に噛み付き、クラヴィスがザフィーロを取り押さえる。
ゼノは、ロレッタの血が抱きとめた自分の手に流れる温かさを感じながら叫ぶ「ロレッタ‼︎なぜだ!なぜ俺を助けた!」
「だからあなたは不器用なのよ。私の気持ちにも気づかずに..」そう言って、ロレッタは苦しそうに微笑んだ。
ゼノが初めて見るロレッタの微笑みだった。その途端ゼノの目から涙が溢れ出す。
「誰か!誰かロレッタを助けてくれ!」
誰も見たことの無い取り乱すゼノに、誰一人動くことも、かける言葉も見つからない。
足音も立てず死神モルスがたたずみ、今にも落ちそうな夕陽を指差し低い声で告げる。
「その者の魂は、あの陽が沈む時に一緒に逝く。私が連れてゆく。お前は知っているはずだ。この者を救えるのはたった1人。」
「ソレイユか!」唸るように叫ぶゼノ。
「そして、私には封印は解けぬ。」モルスは静かに告げる。
「竜の炎だけが、地底の入口にかけた封印を解く…ダメだ!竜を扱えるのは、代々の竜騎士将軍しか…だが、あの伝説の竜騎士は今は地底に!」涙も拭わず絶望の顔で空を仰ぐゼノ。
「おります!竜を扱える者が!」ザフィーロに縄をかけたクラヴィスが叫ぶ。
「このノエルこそが、伝説の竜騎士カール将軍の息子!」
「なんだと!」ゼノの絶望の瞳に一筋の希望が生まれる。
戸惑うノエル。「僕にそんな事が?!」
クラヴィスが駆け寄り、「あの仔竜はどうした?まだ小さいが何度も火を吹きかければ封印を解けるかもしれない!」
「それが…」視線を彷徨わせるが、ジークの姿が見当たらない。
その時、上空から声が聞こえた。
「ここよ!」黒い大きな翼の影がはためくのと同時に、声がする方に目を向けると、精霊イレーネと黒い竜が…
「ジーク?!まさか!なぜそんな大きく?!イレーネ、何が起こってるんだ?」
「今日の決闘で万が一の事があったら、ノエルを助けられるように一時的に成長を早める薬草を食べさせたの。勝っちゃったから、必要なかったみたいだけど!」そういってウィンクするイレーネ。
「イレーネ!君は最高だ!」不思議顔をするイレーネをよそに、ノエルがジークに大声で叫ぶ!
「ジーク!今すぐ地底の扉にかかっている封印を、おまえの炎で焼き尽くして解いてくれ!」
「グァァァァォォォォオオオ!」
地底から響くような雄叫びをあげるジーク。
「助けてくれるのか!オリビアを奪い、お前を利用し、裏切ろうとした余を…」悲痛な目をしたゼノがノエルを見つめる。
「目の前で死にかかっている人を助ける力があるのに、助けないやつなんているのか!さあ、教えてくれ!どこに封印された入口があるんだ!」ノエルがあたりを見まわす。
死神が、黙って進み出て、指で大きく円を描くと、空間にぽっかり穴が開き、その奥に結界が張られて封印されている黒い扉が見える。
「いけぇーーーーーっ!」
ノエルが指差すと、ジークが天高く首を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
そして、
「ゴオオオオオォォォォォーー!!!!」
紅蓮の炎が勢いよくポッカリと開いた空間に吸い込まれていく。
2度、3度、ジークは繰り返す、5度を過ぎた頃、ジークが倒れ込み、体がどんどん縮んでいく。
「ああ〜!効果が切れちゃった!」イレーネが叫ぶ。
扉は、びくとも動かない…
「ダメだったか…」落胆の空気が王宮の広場を満たした。
ピシッ
何かが軋む音が聞こえる。
その途端、まばゆい光線が幾筋も煌めき、やがて王宮全体が真っ白な閃光に包まれる。
その少し前、一瞬上空の厚い雲が揺らめいたことに気づいた者はいなかった。
目が慣れた時には降り立った英雄ソレイユが、ロレッタに向かって歩いているのが見えた。
夕陽の上弦が地平に沈むその刹那、ソレイユはそっとロレッタの傷口に手を触れる。
「いつも、どうしようもない弟を支えてくれてありがとう。」光に包まれるロレッタ。
そしてロレッタの目がゆっくりと開く。
それを待っていたかのように、夕陽も沈む。
「あなたが泣いた顔、初めて見た。あなたも泣けるのね。」そう言ってロレッタを抱きかかえる涙で濡れたゼノの頬に触れながらロレッタは笑った。
ゼノは流れる涙を拭いもせず、「お前の笑った顔も、初めて見たぞ。お前も笑えたのだな。」そう言って、そっとロレッタを椅子に座らせる。
「ソレイユよ、ロレッタを救ってくれた事礼を言う。さあ、俺を殺すなり、地底に封印するなり、好きにするがいい。」
完全に陽が沈んだ王宮で、今までに見たこともない澄んだ瞳でゼノはソレイユに向かう。
「望むものは手に入ったのか?弟よ。」
「いや、手に入れたものは周りからの憎しみだけだった。だが、たった今ずっと探していたものが見つかったようだ。」
「ほう。」ソレイユの右眉が上がる。
ゼノはロレッタを見やり「ずっと気づかなかった。ただこの笑顔を見たかったんだ、と。」
ふっ、とソレイユの顔が緩む。
「もう良い、お前の好きにするがいい、弟よ。ただしこのプロードスは私が守る。そしてこの乙女を解放する。」オリビアとノエルを見やる。
「赦すのか。自分を地底に封印した忌むべき弟を。」
「今日からお前は新しく生まれ変わった。ロレッタと共に生きよ。」
首を垂れたゼノの手をそっと握るロレッタ。
小さく戻ったジークを肩に乗せたノエルは、黒竜騎士団の兵士に囲まれる。
「御父上の跡を継いでもらえまいか?」クラヴィスが膝を折って頭を下げる。それを見て兵士達もクラヴィスに倣って、膝を折る。
ノエルは頭をかきながら、「まだ、リンネ村にいたいんだ。でも、強くなりたい気持ちも捨てられない。それに、こいつがおっきくなったら村の人も困るだろうから、その頃には来てもいいかな?」そう言ってジークを突っつく。
「待っております。竜のための大きな部屋も、美味しい餌も準備しておりますぞ。」
ジークが嬉しそうに喉を鳴らす。
ソレイユがノエルを見つめる。「随分と弟が世話をかけたようだ。詫びを申す。」
恥ずかしそうに頭をかくノエルの指に光る指輪を見て、ソレイユは目を細める。
「かつてこの世界は父上に救われた。そして今日、お主とその仔竜が余と、ロレッタ、そして弟の心をも救ってくれた。誰も殺さず革命をやってのけたのだ。あらためて礼を申す。それにしても目元が父上によう似ておる。いつか、竜騎士として戻る事を待っておるぞ。」
「はい!」元気に返事をしたノエルを、嬉しそうに見送るソレイユであった。
そうして、ノエルとオリビアは北東の門から、竜騎士団の兵士の敬礼の列に見送られ、リンネ村へと帰って行った。イレーネが後からついて行く。ジークはノエルの肩に乗りながら、王宮の上空に漂う雲の塊を、懐かしそうに仰ぎ見る。
ゼノはアブドルに問う。「しばらく離れるつもりだ。いずこが良いか。」
「南へ。」アブドルは静かに答えた。
ゼノは黙って頷くと、ロレッタの手を取りソレイユに一礼をして、南の門へと消えていった。
ザフィーロは、自身と貴族連合にソレイユへの忠誠を誓わせる事で、ソレイユより恩赦を与えられ解放された。以後、重臣としてソレイユを支えることとなる。
そしてプローシド王国は太陽の祝福のもと、以前のような活気を取り戻していき、他国との外交も積極的に行った結果、世界の平和をもたらす中心、誰もが一目置く王国となった。
死神はいつの間にかその姿を消していた。
プロ―シド王国の上空で、雲の間から垣間見えていた天空の神殿は、安心したように厚い雲と共に消えていった。
そしてリンネ村では、今日も甘いチェリーパイを焼く匂いがする。
おしまい
後記(2021年7月)
*(この募集のあった先日の)朝の会のマッキン紙に「XENOにCVLとPROGRESSの要素を含める」というような記述を見つけたので、国の名前をプロードス(PROGRESSのギリシャ語)とし、世界の平和をもたらす中心になるというところは、PGもそうなっていく未来を込めました。
カール将軍(ノエル父、伝説の竜騎士)の登場、生まれ故郷をリンネ村としました。本当は「表向きは心優しき植物学者、実は竜騎士」という若干無理のある話も考えましたが、今回は含めませんでした。あるとしてもスピンオフで十分かと思いました。英雄と皇帝が姉弟という設定は天照大神と須佐之男命に着想を得ました。
誰も死なない、希望が残るストーリー、続きがあるかもしれないという可能性を意識しました。ミュージカルになった時にも、NYのブロードウェイでも万人に受けそうなイメージで詰め込んでみました。天空の神殿や大きくなったジークは、プロジェクションマッピングや影絵でも対応出来ると思います。カードの絵に書き込まれているモノも内容に含める事で、カードとの一体感を得られるかと思いました。少年のカードの小竜からファンタジーらしく竜を加えて膨らませてみました。ブーストカードとしてジークやアヌビス、カール将軍のカードなどが追加されてもいいかもしれません。グッズとして小竜のジークの人形や、竜と剣の指輪やペン、オリビアのバラ窓のステンドグラスの小型版や、グラス、バラ窓やイレーヌの背景柄のスカーフ、などが販売できそうかなぁと思っています。
追記(1/21/2023)XENOがあっちゃんなら、ロレッタが萌さんだとなんだかしっくりくるような気もしました。