CVLプロジェクトと鮨屋の類似性を分析して発展に活かしたい

執筆者 | 21/07/28 (水) | コラム

ども。シンガポールの鮨屋 木村共男(ともお)です。

カールフォンリンネプロジェクトをありがたいことに立ち上げから見させてもらえている機会にまず感謝です。

 

中田さんのゲーム

誰もが」「良いもの」を「サステイナブル」で且つ「みんなが笑顔になれる」服が勝利条件

今回の原価率設定や村松さんの職人として経験、そこに関わる人全てに対しての思いが我々鮨板前と現在主流の鮨店の形に非常に近いと思い繋がるものだなぁと勝手に嬉しくなっておりました。

ここで
銀座で高級店と呼ばれる店の初期投資と原価率、損益分岐点と最高収益の仕組みをシェアします。

まず原価率から(開店当初のよくある形と思ってください)

材料費 50
人件費 15 (本来は20−25%に設定すべき、そうでなければ中心となる人に何かあった場合、即ビジネスが崩壊する。20%以下を2年以上続けると、過労で従業員から死者が出る可能性が高い)
家賃 6%(潜在最高売り上げ、つまり毎日満席状態に対する%です)
雑費 8%(会計費やライセンス、銀行やキャッシュカード会社への手数料含む)

これは
席数8席の夜2回転のみ、基本的に従業員は板場側二人、フロアスタッフ二人での計算です。

週一回の店休で客単価平均が32,000円で想定しています。

ちなみに、高級店でこの組み方ですと店主の立場の人間は1日平均16時間労働で休み無しという状況に追い込まれます。店が休みでも仕事はあるのです。

そしてサポートする立場の人間も見習いレベルでは不可能です。つまりそれなりの人件費が必要となります。

これで週一回の店休で最大利益が約21%(この後、法人税が引かれます)

しかし上にも書いたように、10年以上の継続を見込んだ時の適正な人件費率は約25

腕のある職人とチームを雇って人件費15%で行くとすぐに誰かが体を壊し、営業できなくなる最悪の状態になります。

しかし無理をしてしまうのが職人なんです。逆に言うと無理できない人では技術不足でアマチュアの域を出ないと言うのもこの世界のジレンマ。
まさに中田さんが言っていた、頭を剃れるレベルの覚悟で仕事に臨めるかどうか。いや、実際に剃らなくてもいいです。プロとして生きるなら狂気が必要ということです。

人件費が15%の時の損益分岐点は満席率5割。
つまり日に8人のお客さんが来てくれれば会社は従業員に給料が払えて赤字にはなりませんが、それでは永久に初期投資の回収はできません。

つまり出資側が痛みを伴います。

仮にもし毎日満席、
一日
16人のお客さんが来てくれる状況ならば利益率が21%まで上がります。
ただ毎日満席ですと必然的に人件費を上げて行かないと無理が目に見えて出ますので、この辺りのバランス感覚は店主の裁量です。

現実的な形として、人件費を22%くらいにして

利益を14%くらいにと言うのが良い形かと。(それでも就労時間は一日12時間を越えます)

このモデルの店の場合、客単価に見合う内装と装備が必要になるため、
この単価で成立する店を作るには3ヶ月の運転資金を含め約3千万円の初期投資(15-20坪くらいのお店)
さらに銀座で開けるには大体一千万円の追加投資が必要(敷金が大きくなる)です。

シンガポールではこれが五千万円まで上がります。
そして10年保つ店の内装は日本人大工の手でないと不可能です。

内装費を抑えて始めることも出来ますが、余計な補修や修理になり
10年単位で見ると損をします。

この事が理解できない、出来ても投資できない人がほとんどです。

さて、ROI(return of investment)と言われる初期投資回収に必要な期間ですが、そこそこ順調に行っても回収に約2年は見ておいて間違いありません。
しかし投資が大きい分、回収を終えたあとの利益は大きなものになります。
これが、高級店と呼ばれる鮨屋業界です。

高価格帯の飲食店において、席数の5割を毎日安定して埋めるのが如何に難しいか。

それを打破するために鮨店がとった方法。

1.ターゲットを完全に富裕層に絞る
2.会員制に近い形又は完全予約制
3.コースと時間を縛る(売り単価の最低を底上げ、労働時間の効率化に繋がる)
4.仕入れ方法のブラッシュアップ。問屋に頼るのではなく自ら産地に赴き漁師とのつながりを作り特級の素材を中間マージンを除いた価格で手に入るようにする。
5.鮨を売るだけでなく、そこに関わるものすら売る(席数の縛りを脱却する)
6.宣伝は自分でSNSをメインにする。広告を打つ資金があるならばその費用で良い素材を購入しお客さんに還元。

 

これが「良いもの」を後ろめたさ無しにお客さんに提供する最低条件です。
ところがこれでは売値の問題でお客さんの誰もが楽しめるわけではない。

ただ、良いものを資本主義の世に出す以上、生まれたての会社が最初に攻め込む場所は富裕層狙い意外は成立しないんです。
まずここで利益確定をし、初めて「安くても」良いものを作れる資格を持てるんです。なぜなら、それを実現するには薄利多売のモデルな為に莫大な資本が必要になるからです。

もし逆に安くて誰かが泣いているもので利益を上げ、その後に価格を上げて衣服を売り始めたらどうなるでしょう?
最初はうまく泣いてる人を隠せるかも知れません。しかしそれが表に出た時は大炎上必至なのは既に見ました。

またビジネスにおいて、
値下げは簡単ですが値上げはとんでもなく難しい。
これは中田さんが授業で言及した赤木乳業さんのガリガリ君の値上げ問題に共通する。

高くて良いもののメリットは他にも。
この服を着たいがために仕事を頑張るとか、
商売の仕組みを知りたいとかいう
働くモチベーションやビジネスリテラシーの上昇が見込めること。

これは現代における究極のサステイナブルビジネスモデルです。
そのためには、このブランド名だから高いというフェイクではなく、職人の技術に支えられた確かな品質を維持するということが必要になります。

実はある程度この形(富裕層向け限定ビジネス)が浸透すると、上辺だけ語ってその情報で商売を始める寄生ビジネスも横行しますので芯がゆるぎない物でないと浸食されてしまいます。
飲食業界で言えば、賞レースビジネスや安全なところからの評論ビジネスですね。このあたりについてもいつか書いてみたい。

ここまで書いて、一日寝かしてからコラムに上げようと思っていたら中田さんは寝れない夜を過ごしつつアップデートをかけていました。

しかも、その内容が原価率65%
普通のよくいるタイプの出資者は原価抑えにかかるんです。

この決定には本当に痺れた。
ジョナサンジョースターの父、ジョースター卿が言ってました。

「逆に考えるんだ」

いやでも普通やるかぁ?!

これ、今まさに私がやりたい次の鮨屋と同じ設定だったのです。ただこれをシンガポールでやるには家賃の面をどうしてもクリアしなければならず、永住権が必須になるのでまだ動けていないので悔しい思いをしています。たぶん今年中に永住権取れると思うのですが

しかし中田さん、カッコいいなぁ。
私がオープンからの5年以上をかけて経験し、て考えて、学んだ結論を一晩で。脳に量子コンピュータ積んでるのかな?

 

さて。

ここからはどのようにして私がシンガポールで安定して高級鮨店を営業できるようになったかを書いていきます。これは興味のある方向けです。

2011
渡航時点では生活費以外の貯蓄無し
鮨の技術と知識においては現在とほぼ同じ(会社経営の知識は本で読んだだけの知識でそのままでは実戦でほとんど役に立たないもの)

2012
雇われ店長としてシンガポールで店舗立ち上げ(1年契約)

2013
シンガポールで自分の会社を立ち上げるも
店舗が見つからず、出資者とも方向性の違いが露わになり会社を休眠状態に。
他店舗の立ち上げの案件を受け受諾

2014
シンガポールで国際結婚

2015
2件目の立ち上げ店から退職。
店舗の場所は2012年から探し続けていたがやはり見つからず。
結婚したおかげで会社に頼らないで働けるビザを保持していたので、
お客さんの自宅等で握る鮨ケータリングを開始。

2016
念願の店舗の場所を相場の底値で発見。待ってよかった…。
それと前後してシンガポール人のビジネスパートナーにも恵まれる。
全てが噛み合い進む感覚がありました。Dioが感じたあの感覚がこれなんでしょうか。

もともと休眠状態にしていた会社を倒産させ、
新たに会社を設立(8月)、鮨来村開店(12月)
以後、開店以来満席状態を2021年まで保持。

2012年以降、
200名を超えるインベスターから出資の話を受けました。それほど高級鮨業態というものが魅力のある市場に見えたのでしょう。
転機は2015年にはじめたケータリングでお客さんの家に行って鮨を握ったことで、お客さんとの距離感がさらに縮まり、その中から自分にとって最強最高のビジネスパートナーを選べる立場になったこと。

一つ、鮨が大好き。
二つ、お金に全く困っていない。
三つ、家柄が良い。
四つ、ギャンブルをしない。
五つ、会社の決定権を自分が持てる。
六つ、3人で会社を組んでお互いを牽制できる三竦みの状態が作れること。それぞれ違う強みでお互いを補完、監視、成長ができる。

ちなみに鮨ケータリングの需要は異常な程高いです。
私の技術レベルと英語力を持った日本人鮨職人でシンガポールでケータリングをできるのは今現在でも他にいないユニークキャラ。
自分で言うのもアホなのですが事実です。てへっ。

そのことに気付けたきっかけは常連さんからの何気ない申し出。
そのホームパーティー参加者全員から私のところでもやって欲しいという問い合わせが繋がり続けマーケティングの必要が全く必要ありませんでした。

その頃が収入は一番ありましたが体力的な限界(全部一人でやっていたので)と、自分が動けなくなった時のリスクが高すぎてやはり店舗が必要だという結論に落ち着きました。

私が今のビジネスパートナーを選んだ決め手は、その家のメイドさんたちが幸せそうに笑って仕事をしていたかどうかと、快く私も出資できて本当のオーナーになれるかどうか。

因みに、シンガポールでは「オーナーシェフ」という肩書きを名刺に持っていても実は利益分配を受けれるだけの雇われ店長がほとんどです。

出資者の中には口では良いことばかり言ってきて恐ろしい契約書を出してくる人はたくさんいました。

さらっと一文。
「今後の展開で貴方が如何なるビジネスを始めた場合、その利益は全て私ものです」と書いてあったり。

これ、インドネシア人超富裕層の当たり前なので気をつけてください。
彼らの基本的な帝王学として、才能ある人を見つけたらそれは骨の髄まで自分のものだ。なぜなら私がその才能を見つけたからだ、と言う考え方があります。

契約書の大事さを9割以上の日本人、特に鮨板前は99%が理解していない。

 

長くなりすぎました。
最後までお付き合い頂けたマチョマチョな方好きです

ありがとうございました。

27/07/2021

鮨来村 店主

木村共男

 

執筆者 | 21/07/28 (水) | コラム


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