私でよかったんよ

執筆者 | 22/02/18 (金) | コラム

お義母さんの一言

妻との出逢いは、大学でゼミが一緒だったことがきっかけだった。

お調子者で訳の分からない私を、いつもけらけらと笑ってくれる彼女の笑顔に癒されていた。付き合いだしたのが、夏休み。そんなお互いが帰省中、彼女からメールが届いた。

「お母さんが交通事故にあった。」

ようやく電話で話すときになっても、彼女は泣きじゃくってしまい声にならなかった。緩やかなカーブから対向車が突っ込んできて、正面衝突だったらしい。意識は不明で、予断を許さなかった。

彼女もどうしようもないという感じだった。かける言葉のすべてが、薄っぺらく感じてしまったが、とにかく励ました。

 

その後、お義母さんは奇跡的に意識を取り戻した。手術で入退院があったものの、日に日に元気を取り戻した。妻もそれと同じく、だんだんとあのいつもの笑顔が出るようになった。

 

あれから20年。

少し手に違和感が残るものの、今ではそれをほとんど感じさせないほど、元気に毎日を過ごしているお義母さん。妻との口げんかも日常茶飯事。ケンカするほど仲がいいのやら悪いのやら(笑顔)

昨日は、ひょんなことから、あの事故の話になった。

私「もうあれから20年ですね、お義母さん。あれを乗り越えているお義母さんは、本当に強運の持ち主ですよ。」

義母「いやいや、でも、あのおかげだなって思っとんよ。」

私「??どういうことですか笑顔」

義母「自分でよかったんよ。あれが、主人だったり、〇〇(妻の名前)だったりしたら、余計につらかった。すべての厄難を自分が背負ったんだと思った。そしたらね、逆に感謝できる笑 お風呂でもいつも言うんよ。「自分にありがとう」って。」

 

―自分でよかったんよ。

耳にすっと入った途端、目頭が熱くなるのを感じた。想像してなかった言葉だった。悪いことが起こったのが、自分でよかったなんて、私には言えない。

嫁いできて、3人の子どもを育てながら、家の畑や仕事に一生懸命、人生でも特に充実している矢先の事故。真っ白になったと思う。いろんなものを奪った事故からも、なお、光を見出すお義母さん―。

いや、もちろんね、一緒に住んでいますから、ちょっとした小競り合いがあります(笑顔)

でもね、そんなことどうでもいいですよね。

私も生きよう、全身全霊だ。

そして、心をこめて伝えたい。

「ありがとう、大好きだよ。」

 

 

執筆者 | 22/02/18 (金) | コラム


58 ビュー
7いいね!
読み込み中...