お焚き上げ「さらば『ちゃかしのXENO』よ」

執筆者 | 23/02/06 (月) | コラム

 さて、あっちゃの処女戯曲『XENO』全編の初稿が脱稿しました。初めての読み合わせも終えての感想は、登場人物たちが生き生きとしていて、物語に入り込みやすい、とても完成度の高い、面白い作品です。これは、はっきりと「とんでもない才能」が爆誕した瞬間だと思う。あっちゃんのゴールは藝能界の首領(ドン)であって、劇作家ではないのだけれども、適正としてはとんでもなく「劇作家」に向いていると思った。すでに「劇作家・中田敦彦」の大ファンになってしまった私としては、この活動がつづくことを望みながら、何とかして今回の舞台『XENO』上演にも協力したいと考えている。

 しかし、その前に、個人的なケジメをつけておきたい。

 実は以前、『XENO』のストーリーを作ろうという流れがあって、2021年7月24日からメンバー募集スレッドが立ち上がっていたのだ。そして、私も応募していた。その時には、詳しくは覚えていないのだが、このイベントは立ち消えになった。そして、いよいよあっちゃん本人の執筆による戯曲『XENO』が誕生した以上、もう、かつて私が生み出した『ちゃかしXENO』には天国に召されてもらおうと思う。ここに、『ちゃかしXENO』全編を掲載し、お焚き上げとさせて頂きます。

『ちゃかしXENO』
 若き王ゼノは、弱小王国を強大な国家に変えるため、独裁的政治体制を構築した。死神モルスの協力を得て、近隣諸外国をも黙らせると、皇帝を名乗った。
 しかし、モルスが要求した三つの宝のうち最後のひとつをゼノは引き渡さず、その為に、モルスは王国に疫病を撒き散らした。一つ目の宝は伝家の宝刀、二つ目の宝は王家に伝わる歴史書、三つ目は賢者ロレッタだった。ゼノはロレッタを愛していたのだ。
 ゼノはモルスの弱点を見つけ出す為に兵士を引き連れて自ら旅に出た。占い師アブデルを探す旅である。

 かねてからの圧政に加え、疫病まで蔓延しつつある王国の民は疲弊していた。反皇帝派を地下組織する者たちも生まれた。貴族ザフィーロはそうした組織を陰ながら援助していた。それは、戦争時には戦闘に駆り出されたのに、その割には貴族へのゼノの処遇は冷たく、意見するものは処刑されることもあったからだ。
 そうした地下組織では、まことしやかに語られる英雄ソレイユの噂があった。ソレイユが現れ人民を導いてくれることを期待する人々は日々増えていった。

 占い師アブデルを探す旅の途中の山奥で、ゼノの一行は遭難してしまった。混濁する意識の中で、ゼノは英雄ソレイユの夢を見た。ソレイユは民衆の味方。民衆を導き、暴君らと戦うのだった。ソレイユは不老不死の能力を持ち、死して再び転生することが出来る。今の姿は転生したソレイユだった。それは、少年のような姿をしていた。
 ゼノが目覚めるとひとりの兵士が安堵の笑みを浮かべていた。ゼノを介抱した兵士の名はクラヴィス。ゼノはクラヴィスに先ほど夢で見たソレイユの転生した姿の面影を感じるのだった。生き残ったのはこの二人だけだった。クラヴィスは精霊があらわれ、助けてくれたのですとゼノに説明した。精霊の名はイレーネといった。王家には精霊イレーネの言い伝えがある。国の守護精霊イレーネは夢を通じて理解を促す。あの夢にはいったいどういう意味があったのか。
 ゼノとクラヴィスがついに占い師アブデルを見つけ出す。しかし、アブデルは占う条件としてどちらか一人の命を差し出せと要求。クラヴィスはゼノに弟の面倒を頼み、自らの命を差し出した。約束通り、アブデルは疫病を打倒する方法を透視した。
「王国にオリビアという乙女がいる。この乙女の祈りは疫病を無効化する」

 一方、地下組織には、どうやら皇帝ゼノが旅から戻って来ないという情報が伝わっていた。今こそ蜂起の時だと大騒ぎになっていく。ついに群衆が宮殿の手前までデモ行進のように迫っていく。ザフィーロもどうやら腹を括る時が来たようだと、地下組織の先頭に立って宮殿に攻め入ろうとする。
 そこへ、賢者ロレッタが現れる。何を騒いでいるのか愚かな者どもよ。皇帝こそがこの国を覆いつくす禍から救う救世主である。皇帝を信じて待つのだ。ロレッタの毅然とした態度にたじろぐ群衆。
 そしてついに、皇帝が戻ってくる。皇帝は群衆に向かって叫ぶ。オリビアという少女は誰だ、オリビアはどこにいる?
 群衆の中から、乙女のオリビアが出てくる。ゼノはオリビアに「お前の祈りがモルスの力を無効化するのだ」と説明する。祈るオリビア。やがて王国は霧に包まれ、どす黒い疫病の澱んだ空気が浄化されていく。
「姿を見せろモルス!! 私と戦うのだ!!」と、ゼノ。
「ふ、人間ごときが神をどうにか出来ると思ったか」
 モルスが現れる。
「ロレッタがいるな。ちょうどいい、ロレッタを頂いていくぞ」
 と、そこへ一人の少年が立ちふさがる。
 ゼノが驚く。
 あれは夢で見たソレイユの生まれ変わり。
「この時をまっていたぞモルス。私はソレイユだ!!」
 死神モルスにとって英雄は邪魔な存在だった。そのため疫病の力で一度は殺したのだが、転生していたのだ。転生しモルスを打倒す為にソレイユは潜伏していたのだ。
「わっはははは!! 馬鹿目!! 待っていたのは私の方だ!!」
 モルスはゼノから手に入れた伝家の宝刀を抜き、ソレイユを突き刺した。少年の肉体からソレイユの魂が切り離され、昇天してしまった。王家に伝わる伝家の宝刀には、輪廻転生の輪を打ち破る力があったのだ。モルスははじめからソレイユを狙っていたのだ。
「さあ、ロレッタも頂いていくぞ」
 絶体絶命の状況に、ゼノは占い師・アブデルの言葉を思い出していた。
「乙女の祈りが疫病を無効化する。そして、この兵士のように命を差し出すのだ。皇帝ゼノのよ、自らを貫く刃がモルスに届くなら、それはモルスに致命傷を与えるであろう」
 ゼノはモルスを羽交い締めにし、ザフィーロに命じて自分もろとも剣で突き刺した。
 ついに、断末魔の声をあげて倒れるモルス。やがてモルスの身体は人間のような生気を取り戻していく。ロレッタが近寄る。実はモルスはロレッタの夫であり、前国王だったのだ。
 ロレッタとモルスは弱小国を守るため、古文書を解読し未知の力を得ようとしていたのだった。ロレッタは不老の力を得て、モルスは邪神に墜ちてしまったのだ。ゼノのロレッタへの愛は、母への愛だったのだ。ロレッタは夫と息子を同時に失ったのである。
「大丈夫です。皇帝は助かります」
 そう言いながら、ザフィーロは皇帝の手当を始めた。ザフィーロの超絶剣技は、一度ゼノを仮死状態に貫き通し、その上でモルスを仕留めたのだった。
 意識を取り戻すゼノ。周りを群衆が取り囲む。そこには乙女オリビアも、ソレイユが転生していた少年もいた。どうやら少年は元の少年に戻ったようである。ゼノは少年に問う。
 もしかしてお前の兄の名はクラヴィスではないか? そう、少年はクラヴィスの弟だったのだ。少年の名前はノエルといった。
「ノエルよ。お前の兄に私は、この国は救われた。お前を私の後継者として迎え入れる事にしたぞ。人民に愛される王になれ」
 呆然とするノエル。ざわつく群衆。全てを見守る精霊イレーネは微笑んでいた。そして、空にはソレイユの飛行船が飛んでいる。ソレイユは転生できたのか?

おしまい。

 

 

 

 

 

 

 

執筆者 | 23/02/06 (月) | コラム


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