初摺り以来初めての復刻、世界三大春画「袖の巻」展示会

執筆者 | 22/10/15 (土) | コラム

 先日、鳥居清長の浮世絵――春画「袖の巻」の展示会に足を運ぶ機会があった。

 鳥居清長は六大浮世絵師の一人で、彼が手がけた「袖の巻」は世界三大春画のひとつともいわれている。
 その「袖の巻」を復刻するべく、高橋さんは私財をなげうち、職人たちに木版を彫らせた。
 復刻されるのは初摺り以来初めてのことで、構想から、なんと10年かかったという。
 音頭をとった高橋工房の創業は、今から160余年前。当時の素材と技術・技法でいまも作り続ける、浮世絵木版画工房だ。
 職人たちが技術の粋をつくし、細かい毛の一筋までをも表現した木版と、それらで刷られた春画を見て、素人目でもわかる素晴らしさに思わず唸ってしまった。

 「袖の巻」を紐解くにつれ、単なる男女の睦み事に見えていた中に、違う物語が浮かんでくる。

 当時の世俗から、「古今東西変わらぬなぁ」と思わず苦笑いしてしまうような、劣情をもよおす筋立てまでもだ。
 鳥居清長も浮世絵も、わたしが浅薄な知識で語るより、皆さんの方がよくご存じであろうから、ここらで止めておきたい。

 最後に展示会がおこなわれたアユミギャラリーについても、簡単に記しておこうと思う。
 アユミギャラリーは建築家・高橋博が昭和28年に建てたもので、登録有形文化財に指定されている。ハーフティンバー様式と呼ばれる北方ヨーロッパの古い建築様式らしい。
 高橋博は明治35年、山口県阿武郡嘉年村に生まれた。母方は長州藩の右筆(ゆうひつ)。文化的素地が高く、なおかつ長州らしく外国(とつくに)に目を向ける気風もあり、明治の時代にあっても、自宅にキャンベル缶を常備しているような家だったらしい。
 大正後期から昭和初期にかけての10年間、彼はイギリスのロンドンで建築を学ぶ。その後、日本に帰国し、いくつもの素晴らしい建築を手がけた。

 そんな彼が、己のアトリエとして建てたのが、このアユミギャラリーだ。名は愛する娘からつけたと聞く。
 彼は生前、娘にこう語っていた。
「風が吹いたら揺れるような建築がいいんだよ」と。

 神楽坂はギャラリーの多いまちだ。数ある中で、何故、高橋さんはこのアユミギャラリーを選んだのだろうか。そのことを聞けばよかったと、今にして思う。

 主催者の意図やギャラリーのことまで分かると、この展示会が、より味わい深いものとなるからだ。

 なんにせよ、静謐で趣のあるアユミギャラリーで、「袖の巻」を見ることができたのは浄福といえる。

 東京の展示会は終了したが、京都(11月23日~12月2日)とフランスでの展示の話も上がっているとのこと。これがどのような広がりを見せるか楽しみだ。


58 ビュー
4いいね!
読み込み中...